『グッドフェローズ』(Goodfellas/1990)
『明日に処刑を…』(1972)、『ミーン・ストリート』(1973)、『アリスの恋』(1974)、『タクシー・ドライバー』(1976)、『ニューヨーク・ニューヨーク』(1977)、『ラスト・ワルツ』(1978)、『レイジング・ブル』(1980)、『キング・オブ・コメディ』(1983)、『アフター・アワーズ』(1985)、『ハスラー2』(1986)、『最後の誘惑』(1988)と、70〜80年代に傑作を立て続けに放ったマーティン・スコセッシ監督。
イタリア系のスコセッシにとって、いつかは撮らなければならなかったのがマフィア映画だろう。ニコラス・ピレッジが4年の取材期間を経て発表したベストセラー『ワイズガイ』は、ニューヨークの裏世界で生きた実在の男ヘンリー・ヒルの半生を追った作品。神話的なボスの姿ではなくマフィアの一員から内側を描くという視点に、スコセッシの血が騒いだ。リアリティに満ち溢れ、映像が次々と目に浮かんだからだ。
「これこそ私が探して求めていた本だ」とすぐにピレッジに連絡。一緒に脚本を書き進めることに。5ヶ月間で11回も書き直しされ、徹底的に練り上げられた。スコセッシは『ミーン・ストリート』以来の脚本執筆だったらしいが、キャリアを積み重ねた後だけにその出来は素晴らしいものだった。
こうして作られた『グッドフェローズ』(Goodfellas/1990)は、マフィアの人間関係や友情、結婚生活、そして“ビジネス”などがテンポ良く編集され、随所に映像作家としての手腕が光る傑作となった。ロバート・デ・ニーロとはこれが6回目のコンビ。主人公にはレイ・リオッタを起用し、イタリア気質の強烈な存在感を残したジョー・ペシがアカデミー助演男優賞を獲得。
「ワイズガイ」「グッドフェローズ」とは、マフィア用語で仲間を示す言葉。映画は、数年のサイクルでやって来る“死か服役か”のマフィア生活が、興味深いエピソードを交えながら進んでいく。
主人公のヘンリーはニューヨークのブルックリンで、アイルランド系の父とイタリア系の母との間に生まれた。5大マフィアの一つポーリー(ポール・ソルビノ)に憧れ、12歳で組織の使いっ走りになり、16歳で最初の逮捕。しかし、口を割らなかったことから“本物の仲間”として認められる。
1963年。組織の稼ぎ頭になっていたヘンリーは、いつも冷静沈着なジミー(ロバート・デ・ニーロ)や殺気走ったトミー(ジョー・ペシ)といった仲間に囲まれている。やがてユダヤ系のカレン(ロレイン・ブラッコ)と恋に落ちて結婚。子供が生まれた。
1970年。昔のことで馬鹿にされたトミーが勢い余ってマフィアの幹部を殺害。ヘンリーとジミーが手伝って土に埋める。トミーのチンピラぶりに組織の連中も手を焼くようになる。一方でヘンリーは浮気が発覚して、カレンからは寝起きに銃を突きつけられた。だが二人はポーリーの忠告でヨリを戻す。
ここで最初の刑務所生活へ。刑務所で知り合った連中と禁断のコカイン取引に手を出したヘンリーだが、ポーリーには言えるはずがない。自らも使用し始める。
1978年末。ジミーが指揮をした全米犯罪史上空前のルフトハンザ航空事件がケネディ空港で起きる。手にした金は600万ドル。彼らは最大のビジネスを成功させた。しかし、浮かれた仲間たちは大金を高級車やミンクのコートへと変えていく軽率な行動を取り、ジミーの怒りを買う。目立ってはいけないのだ。
FBIも黙ってはいない。捜査が進むにつれ、捕まれば口を割るかもしれない当事者たちが次々と始末されていく。これがジミーのやり方なのだ。そんな頃、トミーが幹部に昇格することが知らされる。
ヘンリーもジミーも喜んだ。彼らはイタリア以外の血が入っているので、どんなに忠誠を誓っても組織では幹部にはなれない。だが生粋のトミーは違う。その日は3人にとって最高の日になるはずだった。トミーはマフィアの幹部殺しという裏切り行為で射殺された。
1980年。コカイン漬けで被害妄想に取り憑かれたヘンリーは、以前からマークしていた警察に取引現場を押さえられて逮捕。ポーリーからは実質的に見放され、ジミーはルフトハンザ事件の時のような不気味な言動。司法省の連邦証人保護制度のもとで余生を送るか、口を割らずにジミーに殺されるかの選択にヘンリーは迫られる……。
名場面は数多い。オープニングのマフィア幹部殺しは、物語の中盤へと繋がっていく。3人にとってのターニングポイントだ。レストランでのトミーとヘンリーのやり取り、クラブ・コパカバーナでの長いワンショット、幹部殺しの途中で立ち寄るトミーの実家での食卓などは、スコセッシ映画でしか観られないユーモアだろう。
また、音楽の使い方にも定評があり、本作ではシャングリラス、ダーレン・ラヴ、ロネッツ、アレサ・フランクリン、マディ・ウォーターズ、ローリング・ストーンズ、ザ・フー、クリーム、ドノヴァンなど大量のポップ/ロック/R&Bが流れている。
中でもイタリア系トニー・ベネットの「ラグズ・トゥ・リッチズ」が流れるオープニングをはじめ、デレク・アンド・ザ・ドミノスの「いとしのレイラ」の後半のピアノコーダ部分だけを使った中盤シーン、エンドロールで流れるシド・ヴィシャスの「マイ・ウェイ」には思わず痺れてしまった。
予告編
「いとしのレイラ」が流れる有名なシーン
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*日本公開時チラシ
*参考/『グッドフェローズ』パンフレット
*このコラムは2017年12月に公開されたものを更新しました。
評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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