ライヴ・アルバムの楽しみは、スタジオ・アルバムと違って観客の歓声やその場の空気、温度までが中に閉じ込められたレコード(記録)を、部屋の中に居ながらにして味わえるところにある。
名盤と呼ばれるライヴ・アルバムが数ある中で、このダニー・ハサウェイの『ライヴ』もその1枚と言っていいだろう。
ダニーは幼い頃にゴスペル・シンガーであった祖母に連れられて教会へ通い、3歳ですでに祖母のレコーディングに参加したという。
幼い頃からゴスペル・シンガーとして、また優れたピアニストとして、“音楽神童”の名を欲しいまましていた。ハワード大学に進学してからは、クラッシック音楽と音楽理論を学びながら、ジャズにも傾倒していく。
しかし大学在学時からスタジオ・ミュージシャンとして活動し、その仕事が急増したため大学を途中で辞めなければならなくなった。
その後、アトランティック・レコード傘下のアトコ・レーベルと契約して2枚のアルバムを出したが、あまりヒットはしなかった。
ところがミュージシャンの間では評判がよく、スティーヴィ・ワンダーは何十枚も買い込んでアルバムを友達に配り回っていたという話もあるくらいだ。
3枚目のアルバムをライヴ・アルバムにしたらどうかと提案したのは、アトランティックのプロデューサー、ジェリー・ウェクスラーだった。
そして1971年にロサンゼルスのハリウッドにあるザ・トルバドゥールと、ニューヨークのビター・エンドの2カ所でライブ・レコーディングが行われた。
録音を担当したアトランティックのプロデューサーのアリフ・マーディンは、ダニーのライヴに口コミで集まって来た観客のほとんどが、教養のある洗練された人たちだったと振り返っている。
ダニーに初めてのヒット曲が生まれたのは1971年のことである。大学時代にクラスメートだったロバータ・フラックとのデュエットで、キャロル・キングの「きみの友だち(You’ve Got a Friend)」をカヴァーすると、全米チャートで29位、R&Bチャートでは8位に入ったのだ。
ライヴ・アルバムに収録された「きみの友だち」が録音されたのは、ザ・トルバドゥールでのライヴだった。
ダニーが前奏のワンフレーズをピアノで奏でただけで観客が熱狂し、教会のコーラスのように観客が大合唱するサビの部分は、何度聴いても鳥肌が立つほどの感動がある。
しかし、当のダニーは、観客の歓声をアルバムには入れたくなかったという。各曲が終わった後には、礼儀正しい拍手が入る方がいいと思っていたそうなのだ。
しかしアルバムを仕上げる段階で、アリフはプロデューサーとして観客の反応は絶対に入れるべきだと強調した。
「私は観客はとても重要だと思った。観客はもうひとつの楽器だよ」
アリフの言っていることが正しいことは、この曲を聴けば私たちにとっても一目瞭然だ。
参考文献:waxpoetics japan 01からDonny Hathaway Issue by Andrew Scott 吉岡正晴訳
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