1975年12月19日。
ロン・ウッドはフェイセズを脱退し、ミック・テイラーの後釜として、ザ・ローリング・ストーンズに加入することになった。
だが、ロン・ウッドにはライバルがいた。
「グレート・ギタリスト・ハント」(大いなるギタリスト狩り)とも呼ばれた『ブラック・アンド・ブルー』のレコーディングには、他にも何人かのギタリストが参加していた。
中でも注目を集めたのが、ロリー・ギャラガーである。
1948年、アイルランド生まれのロリーも、ミック・テイラー同様、早熟の天才だった。9歳で初めてギターを手にすると、1963年、15歳で早くもプロデビューを果たしている。彼のトレード・マークともなったボロボロのストラトキャスターは、デビューの年に手に入れたものだ。
1966年。ロリーは、ザ・テイストという名前のトリオを結成する。クリームより先に、ザ・テイストはトリオでブルース・ロックを演奏していたのである。
そんな彼らに目をつけたのが、クリームのマネージャーだったロバート・スティグウッドだった。ロバートはテイストと契約を結び、クリームのフェアウェル・コンサートでは、前座をつとめている。
まさしく、ロリーは、第2のクラプトンとしてイングランドに現れたことになる。
しかし、ストーンズが選んだのは、ロン・ウッドだった。
ロンがその名を知られるようになったのは、ロッド・スチュワートと共にベーシストとして参加したジェフ・ベック・グループ時代であろうか。その後、ロッドと共に、スティーブ・マリオットが脱退した後のスモール・フェイセズに参加。ロンはベースをギターに持ち替えている。そして、スモール・フェイセズはフェイセズとなり、絶大な人気を博すことになる。
では、ストーンズにロンのことを紹介したのは、ロッドだったのだろうか?
人気絶頂にあったフェイセズ。ロッドは自ら進んでバンドのギタリストをストーンズに譲り渡すことは考えていなかった。
ロン・ウッドをミックに紹介したのは、ジェフ・ベックだったのである。
ジェフ・ベック自身、個性の強いギタリストだ。ミック・テイラーとキース・リチャーズという個性のぶつかり合うふたりのギタリストがいつまでも共存することの難しさを、誰よりもわかっていたのかも知れない。
ロン・ウッドは、ザ・ローリング・ストーンズという石を転がし、回していくための最善のピースだったのだろう。そして今でも、小柄なロンは、笑顔でステージに立ち続けているのだ。