♪ 君に恋してるわけじゃない
忘れないでおくれ ♪
10CCが1975年に放った最大のヒット曲「アイム・ノット・イン・ラブ」は、そんな宣言から始まる。恋してるわけではない。「通過儀礼の途中の段階で起こるおかしな状態」に過ぎないのだと、クールに分析してみせるのである。まぁ、言葉を変えていえば、恋の病という流行り風邪にかかったことを認めているのだけれど。。。
そして主人公の暴言はエスカレートしていく。
♪ 君の写真をとってある
壁に貼ってあるのさ
壁紙のシミを隠すためにね ♪
エリック・スチュワートがこの歌を書くきっかけになったのは、彼が奥さんに対して言った一言である。
多くの男がそうであるように、彼もまた、愛されていることを常に確認しようとする女性に辟易していたのだろう。
「僕が何度、愛している、と口にしたとしても、その回数がイコール、僕がどれだけ君を愛しているか、ということにはならないだろ」
彼はそう言ったのである。
なーんだ。欧米の男たちもそう思っていたのか、と日本人は少しだけ安心するのである。
♪ いったい何度愛してると
口にしなきゃいけないんだ
君がわかってくれるまで。。。 ♪
そんな歌い出しで始まるのは、エリック・クラプトンの「フォーエバー・マン」である。
1985年、ジョージ・ハリスンの妻だったパティと一世一代の恋愛劇を繰り広げクラプトンだったが、その頃になると、パティとの関係にもひびが入り始めていた。
だが、同じエリックでも、クラプトンは「アイム・ノット・イン・ラブ」と言い放てるようなキャラクターではない。彼はあまりにナイーブな男である。
それとは反対に、10CCは、そのグループ名が象徴するように、何の飾りもないバンドである。ヤードバーズなどに楽曲を提供してきたメンバーにスタジオミュージシャンを加えた4人組は、自らのグループ名に10CCというふざけた名前をつけた。
男が一度に放出する精子の量は、2.5CC。4人だから10CCというわけである。
そんなバンド名の由来を知ると、「アイム・ノット・イン・ラブ」は精子の本音のようにも聞こえてくる。
♪ 君に恋してるわけじゃない。。。♪
そう歌われる背後では、何百回とダビングされたメンバーのコーラスが鳴り響いている。それは男たちの声なき声のように聞こえてくるのだ。