セックス・ピストルズ、クラッシュ、ガンズ&ローゼス、そして日本では忌野清志郎、甲本ヒロトなど数多くのアーティストに多大な影響を与えた孤高のカリスマ、ジョニー・サンダース。
1970年代前半、ニューヨークのアンダーグラウンドシーンの中心的存在だった“ニューヨーク・ドールズ”のメンバーであり、自らが率いたバンド“ハートブレイカーズ”では、ロンドンのパンクシーンとも深く関わったアーティストである。
彼は生粋のニューヨーカーでありながら、英国のローリング・ストーンズやキンクスに憧れていた。“ジョニー・サンダース”というステージネームは、1968年にキンクスが発表したアルバム『The Kinks are the Village Green Preservation Society』に収録されている、バイク乗りのことを歌った楽曲「ジョニー・サンダー」が由来だという。
ブリティッシュ・ロックに影響を受けて音楽を始め、それがニューヨークのパンクシーンを形作るバンドになり、それに影響を受けたイギリスのパンクシーンに自ら身を投じていった。
ロックの歴史を振り返ると、アメリカとイギリスが“宿命的なキャッチボール”を続けていることがわかるのだが、ジョニー・サンダースはまさにそれを体現したアーティストだった。
♪「You Can’t Put Your Arms Round A Memory」/ジョニー・サンダース
1978年、27歳の時にソロアルバム『SO ALONE』を発表した。ジョニーが遺した数多くのアルバムの中でも評価が高く、ファンの間では“最高傑作”とも言われている作品だ。ライブ盤の多いディスコグラフィーにおいて、数少ないスタジオ録音による名作として知られている。
このアルバムが発表される前年の秋に、ジョニーはハートブレイカーズを解散させる。そして、そのままロンドンに残り、“ザ・リヴィング・デッド”というバンド名でイギリスやフランスで何度かライブを行うようになる。
その新バンドには、オンリー・ワンズのピーター・ペレット(G.Vo)とマイク・ケリー(Dr)、エディ&ホット・ロッズのポール・グレイ(B)とステーヴ・ニコル(Dr)、フランス人で元マニアックスのヘンリー・ポール(G.Vo、そして紅一点パティ・パラディン(Vo)など、ジョニーを敬愛するロンドン在住のミュージシャンがジャムセッション的に参加していた。
そこにはなんと、後に“伝説の存在”となるシド・ヴィシャス(B)の正式加入も予定されていたが…実現には至らなかった。またその頃、セックス・ピストルズのスティーヴ・ジョーンズ(G)とポール・クック(B)で“ジョニー・サンダース・レベル”というバンドの結成も試みられたが、これもまた数回のライブとリハーサルを行っただけだった。
当時、仕事は堂々巡りしていて、ヘロインの問題は手に負えなくなり…まるでウィリアム・バロウズの小説に出てくる生き物のようになっていた。音楽誌は“どれだけ長く生きれるか?”、あるいは“どれだけ早く死ぬか?”といった下らないホラ話を書きたてた。
程なくして、新作ソロアルバムを制作する話が、プリテンダーズのマネージャーのデイヴ・ヒルが当時設立した“リアル・レコード”によって計画された。プロデューサーには、後にローリング・ストーンズやU2のアルバムで広く名を知られることとなるスティーヴ・リリーホワイトが迎えられた。
レコーディングには、前出のザ・リヴィング・デッドやジョニー・サンダース・レベルを通じて集まったメンバー達に加え、実にバラエティ溢れるゲスト陣が参加し、大きな話題を集めた。
元スモール・フェイセス〜ハンブル・パイのステーヴ・マリオット(Vo)、シン・リジィのフィル・ライノット(B.Vo)、プリテンダーズのクリッシー・ハインド(Vo)、そしてハートブレイカーズのウォルター・ルウ(G)とビリー・ラス(B)、ルーモアのサックス奏者ジョン・アイリッシュ・アールらが集結し、ジョニーが多くのミュージシャン達からリスペクトされていたことを知らしめる機会となった。
それから数年後…イギリスの音楽誌『サウンズ』がインタビューでジョニーにこんな質問をした。
「これからは何をするつもり?」
ジョニーは、ドラッグでくぼんだ目を輝かせながこう答えた。
俺の夢が実現するんだ。ニューオリンズに行けるように金銭面で援助してくれる人がいるんだよ。今度は黒人のベテランミュージシャンたちを集めてバンドを組むのさ。ニューオリンズって場所は、R&B、Blues、Rock’n’Rollと最も素晴らしい音楽に満ち溢れているんだ」
♪「You Can’t Put Your Arms Round A Memory」/ジョニー・サンダース(LIVE)
<参考文献:書籍『インコールド・ブラッド』鳥井賀句(著)シンコー・ミュージック/アルバム『SO ALONE』ライナーノーツ 鳥井賀句(著)ワーナーミュージック・ジャパン>

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