TAP the DAY

ロック史上初の海賊盤はどのようにして生まれたのか?

2016.09.11

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真っ白なところにスタンプが押されただけの簡易的なジャケット。
アーティストの名前も曲名も書かれてなく、一見しただけでは何のレコードか分からない。

ロック史上初のブートレグ(海賊盤)、『グレート・ホワイト・ワンダー』がロサンゼルスの店に並びはじめたのは、1969年9月11日のことだったといわれている。(ただし7月頃という説もあり)

中に収められていたのは、1966年のバイク事故以来、隠遁生活を送っていたボブ・ディランの未発表音源だった。



事故から半年以上が過ぎた1967年の2月、退院してニューヨーク郊外のウッドストックに移り住んでいたディランは、前年のツアーを映画にするために、自宅で撮影したフィルムの編集作業をしていた。
しかし1人で作業を進めるのは大変ということで、ツアーに参加していたホークス(のちのザ・バンド)のメンバーを自宅に呼び寄せる。

脱退していたドラムのリヴォン・ヘルムを除くロビー・ロバートソン、リチャード・マニュエル、リック・ダンコ、ガース・ハドソンの4人と顔を合わせたディランは、彼らとともにリハビリをかねてセッションをスタートさせた。
はじめはディラン宅のレッド・ルームと呼ばれる部屋だったが、ホークスのメンバーがウッドストックに家を借りて引っ越してくると、そこでのセッションが中心になる。
この頃にはリヴォンもバンドに復帰し、彼らの住む「ビッグ・ピンク」と名付けられた家の地下室を中心に、翌年1月までセッションが続けられるのだった。

bob-dylan-and-the-band-1967

セッションではディランの新曲だけでなく、バラッドやトラディショナルといった古い楽曲が多く取り上げられた。
ステージで観客と向き合う日々から解放されたディランは、自分の音楽の根っこにある楽曲と改めて真摯に向き合うことに時間を費やしたのだ。
そのほとんどが録音され、テープは全部で9巻にもなった。

ディランが録音したのは作品としてリリースするためではなく、それらの楽曲を他のアーティストにも取り上げてもらうためだった。
録音を担当していたガースによって、膨大な曲の中から14曲が選ばれて1本のテープにまとめられ、自身が設立した音楽出版社を経て、興味を持ったアーティストのもとへと届けられた。
すると、ピーター・ポール&マリーやバーズなどによってカバーされ、中でもマンフレッド・マンがカバーした「マイティ・クイン」は全英チャートで1位を獲得する。
テープはその本来の役目を無事に果たしたのだった。



それから1年以上の月日が流れた1969年の中頃。
ロサンゼルスにあるレコードの卸売業者で働いていた若者、ケン・ダグラスとダブ・マイケル・テイラーは、回収したテープの中から偶然にもそのテープを発見した。

2人はともにディランの熱心なファンだったが、アコースティック派だったケンは、エレクトリック派だったダブとはいつも意見が割れていたという。

「でも『ナッシュビル・スカイライン』が出た時ついに2人の意見が合ったんだ。これは好きじゃないってね」


1969年の4月にリリースされた『ナッシュビル・スカイライン』はカントリーへの傾倒が如実に表れた作品だが、当時の2人が求めているものではなかったようだ。
そこで2人は、手に入れたテープをレコードにして広めることを画策する。

ダブによれば1000枚か2000枚が生産され、地元のラジオ局を通じてレコードの存在を広めていったという。

『グレート・ホワイト・ワンダー』と名付けられたそのレコードが市場に出回ると、すぐにローリング・ストーン紙でも取り上げられ、多くのファンは正式なリリースを求めるのだった。

レコード会社がようやっとその声に応えたのは1975年、『地下室 (ザ・ベースメント・テープス)』と名付けられてリリースされると大きな話題となり、アメリカとイギリスのそれぞれでゴールド・ディスクを獲得する大ヒットとなった。

bob_dylan_and_the_band_-_the_basement_tapes

セッションに参加していたロビー・ロバートソンによれば、タイトルの“ベースメント”とは単に地下室だけを指すものではなく、自宅録音という手法を意味した言葉でもあるという。

「ベースメントでのやりかたは、ツアーでボブとやっていたのとはちがっていた。ホークスのときとも、ロニー・ホーキンスといっしょのときともちがっていた。
あれは、まったく新しいグループで……心のこもったていねいなつくりの音楽に変わったんだ。
あの音楽には時を超える精神があった」




ボブ・ディラン&ザ・バンド『地下室(ザ・ベースメント・テープス) 』
Sony

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