ビートルズとしてデビューして以降、半世紀以上にもわたってポップ・ミュージックの世界で活躍し続けているポール・マッカートニー。
時代に応じて新しい音楽を追求してきた彼は、2015年に革新的なコラボレーションによって世間を驚かせた。それは、ラッパーであるカニエ・ウエストとの共作である。
ポールがビートルズとともにロックの新たな可能性を切り開いたように、カニエも既存のヒップホップの枠にとらわれないような実験的な楽曲を作り出すアーティストであった。
ポールによれば、ある日カニエのマネージャーから電話がかかってきたのだという。コラボレーションの依頼に最初こそ驚いたが、それよりも好奇心が勝り快諾するのだった。
「最初はちょっと不安だったよ、だって大失敗に終わるかもしれなかったからね。でも彼が何をするつもりなのか、どうやって作業をするのかに興味をそそられたんだ」
こうしてポールは、長いキャリアの中で初めてラッパーと音楽を作ることになったのだ。
ビバリー・ヒルズのホテルで行われた楽曲制作は、バンドで曲を作ることと全く違うプロセスで行われた。思いついたフレーズや、メロディ、会話の断片などをひたすらiPhoneに録音し続けたのだ。
ギターやピアノを弾きながらメロディを作り、バンドと共に完成させていくことを曲づくりの基本としていたポールにとって、カニエの手法はとても新鮮で刺激的だった。
そして数ヶ月後、ポールの元に3曲の音源が送られてくる。その中で彼が耳を奪われたのは、リアーナがシンガーとして参加した「Four Five Seconds」であった。
二人が共に作り上げた普遍的な魅力を持つメロディが、アコースティックな楽器の音や会話の断片が挟み込まれることによって際立つ楽曲になったのだ。
ポールがひときわ感心したのは、彼が弾いたアコースティックギターの音に早回しの加工を施していたことであった。それはかつて、ビートルズが『サージェント・ペパーズ・クラブ・ハーツ・ロンリー・バンド』や『リボルバー』で試みたエフェクトを彷彿とさせるものだったのである。
まさに「Five Four Seconds」はカニエとポールが通じ合い、作り上げた結晶のような作品になった。しかし、2015年の元旦。二人で作り上げた3曲の配信が始まると、SNS上で思わぬ反応がリスナーから巻き起こった。
「カニエは才能を発掘するのが上手いな。このポール・マッカートニーとかいうヤツ、絶対ビックになるよ」
「カニエって今回みたいにあまり知られていないアーティストにも注目するから好きなのよね」
カニエ・ウエストを聴く若いヒップホップ・ファンは、「ポール・マッカートニー」のことを知らずに新人アーティストと勘違いしたのである。
しかし、それらの反応はポールのセンスが現代の若者にも受け入れられるということの裏返しでもあった。なにより彼自身も、その反応を楽しんでいたという。のちにポールはインタビューでこのようなことを語っている。
「もし僕が普段とは違うところへ行きたいと思ったら、僕は行くよ。そしてそれが楽しければ、それで十分なんだ。そうするとあらゆるおかしなことが起こって、それがまた最高なんだ。例えば、カニエが僕を発掘したと思っている人がたくさんいるとかね」
そして、2015年のグラミー賞でも二人はリアーナと共にパフォーマンスを行った。そのステージは往年のロックファンから若いヒップホップファンまで、幅広い層から大きな反響を呼んだ。
ポールの音楽への探究心がカニエと共鳴し、さらには若い世代にも新鮮に映る楽曲を作り上げたのだ。
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