「あの夜エド・サリヴァン・ショーを見ていなかったら、今日の僕はないと断言できる。この世に存在してさえいなかったかもしれない。僕の人生が活力に満ちているのも彼らのおかげなんだ」
そう語ったのは、当時14歳の少年だったビリー・ジョエルだ。
人気バラエティ番組「エド・サリヴァン・ショー」にビートルズが登場したのは、1964年2月9日のこと。
わずか14分の出演時間だったが、「オール・マイ・ラヴィング」「シー・ラヴズ・ユー」「抱きしめたい」など計5曲を披露した。
ビートルズが動く姿を一目見ようとおよそ7500万人もの人たちがチャンネルを合わせ、視聴率は脅威の60%を記録、“ビートルズが出演している間は全米の青少年犯罪件数がゼロだった”という逸話まで生まれた。
エド・サリヴァン・ショーが放送された翌日には、街中の楽器屋に多くの少年たちがギターを求めて駆け込んだという。その中には若き日のブルース・スプリングスティーンやトム・ペティの姿もあった。
「座って見ていたのをはっきりと覚えている。とにかくすごかったよ。まるで地軸が傾いたような…あるいは宇宙人が侵略してきたような衝撃だった」(ブルース・スプリングスティーン)
「ぼくの人生を変えたパフォーマンスの1つだ。その瞬間まで仕事としてロックを演奏するなんて考えたこともなかったよ」(トム・ペティ)
エド・サリヴァン・ショーでのビートルズは若者たちに計り知れないほどの影響をもたらしたが、一方でアメリカのメディアは「性別不明、光るものがない」「騒々しいだけのバンド」などと報じた。
それまでイギリスの音楽とアメリカのマーケットには、高くて大きな壁があった。当時イギリスでもっとも人気のあったクリフ・リチャードですら、アメリカ進出は失敗に終わっていたのだった。
ビートルズとて例外ではなく、前年の7月にリリースしたアメリカにおけるデビュー・アルバム『イントロデューシング・ザ・ビートルズ』は全くヒットしなかった。
流れが変わったのは秋の終わり頃、ラジオでイギリスからの輸入盤が流れて火がつき始めていた「抱きしめたい」が、1963年の12月26日にリリースされると、わずか3日間で25万枚を売り上げたのだ。
その勢いは衰えることなく、翌年2月1日にはついに全米1位まで登りつめた。
(詳しくはこちらのコラムで)
そこから間髪入れず、9日には前述のエド・サリヴァン・ショーに出演して、センセーションを起こした。そして12日には格式高いことで知られるカーネギー・ホールでのコンサートを成功させると、16日には再びエド・サリヴァン・ショーに出演した。
テンポよく展開していった「エド・サリヴァン・ショー」とカーネギー・ホールでのコンサートだったが、これらは「抱きしめたい」のヒットを受けて決まったものではない。カーネギー・ホールでのコンサートは驚くべきことに、1年前から決まっていたものだった。
1962年10月、イギリスの新聞を賑わせているビートルズの名に目をつけたのが、アメリカでプロモーターをしていたシド・バーンスタインだ。イギリスにおける彼らのニュースは日を追うごとに大きくなっていき、これはタダ事ではないと感じ取ったという。
「プロモーターとして、私は『勝負の時だ』と思った。アメリカでは誰も彼らを知らなかったけど、絶好のタイミングだと思った。単なる直感だったけどね」
そして1963年の2月にマネージャーのブライアン・エプスタインと連絡をとると、彼らの音楽も聴かずにカーネギー・ホールでのコンサートを契約したという。
一方エド・サリヴァンもその年の夏にヨーロッパを訪れた際に、イギリスにおけるビートルズの圧倒的な人気を知って出演交渉を持ちかけた。すると、2月にカーネギー・ホールでコンサートをやるということで、その前後での出演をブライアンに取り付けた。
ビートルズからただならぬ何かを感じ取って動いた2人だが、イギリスのバンドがアメリカで成功した例などなく、はたから見れば無謀とも思われただろう。
しかし彼らの直感は見事に的中し、年が開けて1964年になると「抱きしめたい」が全米1位となり、エド・サリヴァン・ショーとカーネギー・ホールでのコンサートは、最高のタイミングで本番を迎えたのである。
これによってビートルズのアメリカ進出は前代未聞の大成功を収め、4月には全米チャートの1位から5位を独占するという快挙を成し遂げる。
イギリスの音楽シーンとアメリカとの間にあった壁は乗り越えられて、ブリティッシュ・インヴェイジョン(イギリスの侵略)と呼ばれる新たな時代が到来する。
(注)本コラムは2015年11月3日に公開したものです。
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