『ゴースト/ニューヨークの幻』(Ghost/1990)
1990年、日本はまだ好景気に浮かれていた。大人たちは株や不動産の動向に一喜一憂し、大企業や権力者たちは投資や買収という名のマネーゲームを強気に繰り返し、最新の追求と優越感に囚われた都市部の男と女たちが恋愛ゲームに明け暮れていた頃。
そんなある日、『ゴースト/ニューヨークの幻』(Ghost/1990)は公開された。この映画は本国アメリカだけでなく世界中で大ヒット。日本でもその年一番人気の劇場公開作品となり、デミ・ムーアのショートカットや物語中に出てくる陶芸にも話題が集まった。あまりにもヒットしたので、この路線を真似た映画やドラマが量産されたほどだ。
その理由は、真っ直ぐでピュアな愛を描いたこと。虚飾にまみれた時代とは真逆の世界観に、多くのまともな心が本来の自分たちが理想とする姿を捉えたのだろう。それに映画としても『ゴースト/ニューヨークの幻』は、非常に優れた作品だった。ロマンス、ファンタジー、コメディ、サスペンス、スリルの調和が絶妙だ。
主演したパトリック・スウェイジ(2009年に亡くなった)は、この役を仕留めるために相当の努力と想いがあったという。最初この役を打診されたのは有名なハリウッド・スターたち。しかし誰一人、“死人”の役はやりたがらない。パトリックは台本をありったけの感情移入で読み上げてスタッフたちを泣かせ、大逆転の末にキャスティングを決めた。
もう一人の主演デミ・ムーアは難なく決まったそうだが、クランクイン直前にパリに出向いて長い髪を自分の判断でバッサリ切ってしまい、監督を大いに悩ませた。だが撮影されたフィルムを観て、それが正解だったことが分かった。また、二人をつなぐ重要な霊媒師役には、当初はティナ・ターナーが有力視されていた。結果的にウーピー・ゴールドバーグの演技がこの作品に光を与えることになった。彼女はアカデミー助演女優賞を受賞。
主題歌はライチャス・ブラザースが歌う「アンチェインド・メロディ」。1965年にフィル・スペクターのプロデュースでリリースされて全米4位を記録したバージョンで、この映画の大ヒットと効果的な使用、歌詞がストーリーを代弁していたこともあってリバイバル・ヒット。名曲が突如として蘇った。
(以下ストーリー・結末含む)
物語はニューヨークが舞台。銀行に勤務するサム(パトリック・スウェイジ)は恋人で陶芸家のモリー(デミ・ムーア)と一緒に暮らすことになり、幸せを感じていた。古いジュークボックスから流れる「アンチェインド・メロディ」をバックに愛を交わす二人。
翌日、サムはオフィスである口座のデータに不審な点があることに気づく。同僚で友人でもあるカールが手助けを提案するが、断ったサムは真相をつかめずにいた。ある夜、観劇の帰り道、モリーが結婚したいと未来を語り始める。「愛してる」と言っても、サムは恥ずかしさもあって「同じく」としか言わない。ありきたりでも愛の言葉をはっきりと口に出して欲しいモリーだが、二人の絆が強いことを確認できた。
その時、暴漢に襲われる二人。モリーを守ろうとするサムは拳銃で撃ち殺されてしまう。その場で泣き叫ぶモリー。サムは自分の死体を見つめて呆然とする。ゴーストになってしまったのだ。
実は暴漢はカールが仕向けたもので、口座の不審な動きは麻薬組織が不正に得た大金400万ドルを正当に見せかけるためのマネー・ランドリー(金の洗濯)だったことが判明。サムは不都合に思ったカールが計画して自分を殺したことを知る。このままではモリーの命も危ない。
サムは彼女を守るため、インチキ臭い霊媒師オダ・メイ(ウーピー・ゴールドバーグ)と知り合い、協力してもらうことに。ゴーストでも物を動かせる能力を得たサムは、カールたちに復讐を仕掛ける。そして奇跡が起きるクライマックスへ……。
天国からの迎えが来たサムが「愛してる」と初めて言うと、モリーが「同じく」と返すところがいい。
ここ25年で驚異的な技術や視覚を駆使した映像が数多く生まれた。どれも凄さを競い合っているようで、時に疲労感さえ覚える。今観ると、チープなSFXと思ってしまうかもしれない。でも『ゴースト/ニューヨークの幻』に漂う「デジタル3:アナログ7」くらいのレベルの方が、どこまでも心地よく、映画を長く楽しめる気がする。
予告編
主題歌に使用されたライチャス・ブラザースの「Unchained Melody」はリバイバル・ヒット。
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*日本公開時チラシ
*参考/『ゴースト/ニューヨークの幻』パンフレット
*このコラムは2016年10月に公開されたものを更新しました。
評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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