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シネイド・オコナー~野次の嵐の中で再び歌った”War”

2014.07.01

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シネイド・オコナー~全米に波紋を呼んだ捨て身の抗議


1992年10月16日、ニューヨークのマジソン・スクエア・ガーデンではボブ・ディランのデビュー30周年を記念したトリビュート・コンサートが催された。

出演したのはエリック・クラプトンやジョージ・ハリスン、ザ・バンド、ニール・ヤング、ルー・リードなどロックの黄金時代を牽引してきた豪華面々の他、カントリー勢からはジョニー・キャッシュらカーター・ファミリーにウィリー・ネルソンやクリス・クリストファーソン、モータウンからはスティービー・ワンダーなど、多種多様な顔ぶれが揃い、ブッカー・T&MG’Sを中心にして結成された1日限りのハウスバンドがバックを務めた。
このラインナップを見るだけで、ジャンルや時代を超越したディランの影響ぶりがうかがい知れる。
そして、その中には2週間前に全米ネットワークの生放送でローマ教皇の写真を破って渦中の人となったシネイド・オコナーの姿もあった。

コンサート中盤、クランシー・ブラザーズの演奏が終わるとクリス・クリストファーソンがステージに登場し、シネイドを紹介した。
彼女が登場すると、生放送の時の静まり返ったスタジオとは打って変わり、激しい野次が巻き起こる。
観客が落ち着くのを少し待ってはみたものの、全く止む気配がないのでバックバンドが強引に演奏を始めようとしたが、シネイドはそれを制した。
しかし、いくら待っても野次の勢いが衰える気配はなく呆然と立ち尽くしていると、クリストファーソンが近づいてきて耳元で囁いた。

「連中を打ちのめしてやれ」


その言葉に背中を押されたシネイドはブーイングを浴びせられる中、予定されていたディランの「I Believe In You」ではなく、“あの日”と同じボブ・マーリィの「War」をアカペラで歌い出した。
会場は一瞬静まり返ったが、次第に野次が飛び始める。

私たちは勝利を確信している 
善が悪に勝つのを
善が悪に勝つ


歌い終わると歓声とブーイングが入り混じって、場内は異様な空気に包まれた。
シネイドはクリストファーソンのもとに行くと、抱えられるようにして退場する。
こうして彼女の戦いは一度幕を引くこととなる。





彼女が糾弾したローマ・カトリック内での性的虐待問題はその後、徐々にその実態が明るみに出ることとなる。
問題の温床となっていたマグダレン修道院はかつて世界中に点在していたがその数は減少し、1996年には最後の1つとなったダブリンが閉鎖された。
2002年には、アメリカで聖職者が性的虐待で訴訟を起こされたことが話題となり、再びこの問題が注目を浴びる。
その動きは世界各地へ連鎖的に拡がり、被害者が名乗り出て訴訟が起きるなどして徐々に全貌が知れ渡った。

そして2008年4月、教皇ベネディクト16世がアメリカを訪問した際に、公式の場で初めて性的虐待の件で謝罪をする。シネイドが「War」を歌ってから16年後、ようやく教会が非を認めた瞬間だった。

翌2009年、ボブ・ディラン30周年コンサートでシネイドを励ましたクリス・クリストファーソンは「Sister Sinead」という曲を発表する。


彼女は出来るだけ一生懸命に真実を伝えようとしたが、
その深淵なるメッセージは誤解を招いた


シネイドが過激なパフォーマンスによって受けた誤解は、長い年月を経てようやく解けたのだった。
しかし、カトリックによる性的虐待の問題が完全に解決するまで、彼女の戦いは続いていくのだろう。




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