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偉大なる魂の復活〜ジャック・ブレル、死の直前にレコーディングした最高傑作

2017.06.25

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「シャンソンを書くのは人間らしい行為だ。シャンソンを歌うのは動物的行為だ。」

(ジャック・ブレル)

その男の名はジャック・ブレル。
フランスで成功したベルギー出身のシャンソン歌手。
作詞作曲家でもあり、その作詞の素晴らしさから“稀代の詩人”とも評された人物である。
またフランス語圏では俳優および映画監督としても知られた才人だ。
1978年10月9日、彼は49歳でこの世を去った。
死因は肺癌。
他界した時、フランスの人気雑誌『Le Point(ル・ポワン)』の追悼記事にはこんなことが書かれていた。

「1968年12月から翌年5月までミュージカル『ラ・マンチャの男』に主演したあと、彼はやせ細り、疲れ切っていた。」


68年といえば、彼が他界する10年前だから…まだ39歳。
歌手としも俳優としても充実しきっていた頃、彼は突然一線から身を引く。
1973年、44歳になった彼は突如としてフランス領ポリネシア、マルキーズ諸島にあるヒバオア島に移住したのだ。
長きに渡ってフランスの国民的スターであり続けた男がなぜ?
ファンやメディアはその真相を疑った。
移住した翌年には、自家用船“アイスコイ2号”で大西洋横断を成し遂げる。
また、若い頃にアメリカの自家用操縦士の運転免許を取得していた彼は、小さな双発飛行機を所有してタクシー飛行機の仕事を楽しみながらで過ごしていたという。
そんな日々を送る中、喫煙者であった彼は肺癌罹患が発覚し一度手術を受けることとなる。
そんな生活を4年続けた後…1977年9月、彼は(再び突如として)パリに舞い戻る。
それは彼が48歳を迎えた年の出来事だった。
約10年前のミュージカル『ラ・マンチャの男』以来、まともに歌っていたなかった彼が、島暮らしを通じて書きためてきた新曲18曲のレコーディングをするというのだ。
彼と20年来の親交があるピアニスト/編曲家ジェラール・ジュアネストとフランソワ・ローベの二人は、数週間前に島から送られてきたデモテープをもとに、前もってオーケストレーションを譜面にして彼の到着をスタジオで待っていた。
68年以来、スタジオレコーディングをしていなかった彼は、その間に発達した録音技術の進歩など知るよしもなかった。
演奏パートを分断しながら録る技術など一切使うことなく、自分が知っている方法でしか歌えないというのだ。
すなわち、40人の演奏者(楽団)が生演奏する前で“一発録り”で歌もオケも録音していくやり方にこだわったという。
楽団員達はパリ8区オッシュ通りのバークレイスタジオに毎朝集合して、彼と共にレコーディングを進めていった。
朝は咳が少ないからだ…。
そこに参加した皆が“これがジャック・ブレルにとって最後の作品となる”と無言のうちに感じていたという。
数年前に肺癌で手術を受けながらも、毎日煙草を5箱吸い、島暮らしで肌を健康そうに日焼けさせてはいるものの…やせ衰え、咳が出ればなかなか止まらない。
そんな姿を見て、誰もがそう思ってしまうのは仕方のないことだった。
レコーディングもいよいよ終盤に差し掛かった頃、アルバムのタイトルナンバーにもなった「Les Marquises(偉大なる魂の復活)」を録る日が来た。
咳のことを配慮して、その日はいつもよりも早く朝8時からのスタートだった。
彼はスタジオに入り、発声練習をしようとしたが…その日は酷く咳き込んでしまったという。
気持ちを落ち着かせ、気を取り直してマイクに向かう彼。
やがてスタジオのドアに録音中を知らせる赤いランプが点灯し、演奏が始まる。
彼は一言一句、言葉を噛みしめるように歌ったという。
その歌の最後の行はこんな歌詞でしめられている。





苦しむことはマルキーズの島々には似合わない






歌い終えた彼は、ブースの向こうにいるサウンドエンジニアに一言。

「サ・ヴァ?(OKかい?)」



その後レコーディングの全行程を終えた彼は、スタッフと話し合って12曲をアルバムに収録することとした。
不満の残る6曲は永久封印することが約束された。
彼が所属していたバークレイレコードの社長、エディ・バークレイは「ジャック・ブレルのカムバック作品を歴史的事件にまで高めよう!」と、現場に指示を出したという。
異例の100万枚を超す店頭販売を決め、楽曲のラジオオンエア開始を11月17日12時51分と定め、シャンゼリゼ通りはジャック・ブレルの新作アルバムのジャケット一色となったという。
それから約一年後、1978年10月 9日に彼は再発した肺癌によってパリ郊外にてこの世を去る。
彼の遺骨はマルキーズ諸島にあるヒバオア島のトレーター湾を見下ろす墓地に埋葬された。
近くにはゴーギャンの墓もあるこの地は、現在ヒバオア島の観光名所となっているという。


<参考文献『ポップ・フランセーズ名曲101徹底ガイド』向風三郎(音楽出版社)>

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