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グッド・ウィル・ハンティング〜ビート世代の風景を受け継いだガス・ヴァン・サント監督作

2023.12.12

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『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(Good Will Hunting/1997)


『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(Good Will Hunting/1997)には忘れられないシーンが3つある。

一つはエンドロールに映る真っ直ぐに伸びた一本の道。そして西へ向かって走り続ける一台の車。これだけだと何てことのない映像のように思うかもれしない。だが、映画を観ればこれが特別なものに感じる。主人公は今まさに「生きる」ことに歓喜し、自分の殻を破り、住み慣れた町を離れ、「会いたい人」のために移動していくことを選んだのだ。

ジャック・ケルアックの小説『路上/オン・ザ・ロード』の断片のようなこの映像がしばらく頭から離れなかった。今回改めて観ていると、最後に「この映画をウィリアム・S・バロウズとアレン・ギンズバーグに捧ぐ」というクレジットを見つけて、何だか胸が熱くなった。

ビート・ジェネレーションを代表する二人は、映画が公開された同じ1997年に亡くなった。『ドラッグストア・カウボーイ』や『マイ・プライベート・アイダホ』を撮ったガス・ヴァン・サント監督にとって、それは絶対に刻まなければならない風景だったに違いない。

次は、最愛の妻を亡くして失意の中で生きる大学講師のショーン(ロビン・ウィリアムズ)が、書物の引用を武器に他人を論破することを楽しんでいるかのような天才数学青年ウィル(マット・デイモン)に言い放つところ。

君には両親がいないね。もし僕がこう言ったら? 「君のなめた苦しみはよく分かるよ。ディケンズの『オリバー・ツイスト』を読んだから」。どういう気がする? 僕にとってはどうでもいいことだ。君から学ぶことはない。本に書いてある。君自身の話なら喜んで聞こう。

自分への愛より強く愛した誰かを失う。その悲しみを君は知らない。君はそれほど何かを愛したことがあるのか。自分が傷つくことを恐れ、先に進もうとしていない。今の君が知性と自信を持った男なのか。今の君はただの生意気な怯えた若者に過ぎない。


要するに、真の人生は書物から得た知識では学べない。自ら勇気を持って経験を積むことなのだと、ショーンは静かに教えるのだ。同じロビン・ウィリアムズが演じた『いまを生きる』のキーティング先生を思い出す。

(以下ストーリー)
ウィルは桁外れの頭脳を持ちながら、幼少期に受けた里親からの虐待で心を閉ざし、貧しいので大学へも行けず、南ボストンにあるスラム街のようなエリアに住み、ワーキングクラスの日々を送っている。仲間たちと仕事終わりに酒を飲むことが唯一の楽しみだ。そして時々、警察沙汰で問題も起こす。

マサチューセッツ工科大学の清掃員をしているウィルは、ある日廊下の黒板に書かれた数学の難問を見つけ、いとも簡単に解いてしまう。それはフィールズ賞(数学に関する賞の最高権威)を受賞したランボー教授からの学生たちへの挑戦状だったのだが、大学に解ける者はおらず、ウィルの非凡な才能に驚愕する。

教授はウィルと共同で数学の研究に取り組みつつ、素行問題を解決するために著名な心理学者のカウンセリングを受けるように彼を仕向ける。しかし全員逆にウィルに軽くあしらわれるだけで、最後の手段として学生時代に仲の悪かった同級生ショーンに協力を要請する。

自分と同じ孤独な人間であるショーンに次第に歩み寄っていくウィル。ハーバード大学に通うスカイラーともデートを重ねるようになり、生きる喜びを知る。一方でランボー教授は、ウィルの才能を必要としている大企業の就職面接をブッキングする。当然ショーンは反対する。「進むべき道を自分で決めさせる時間を与えてやれ」と。「君に会っていなければ夜も安眠でき、絶えず君を権威に感じることもなかっただろう」。ランボー教授はウィルに敗北宣言をした。

最後の見どころはウィルのワーキングクラス仲間のチャッキー(ベン・アフレック)との友情。脳天気で喧嘩っ早いこの男は実はウィルのことが心配で、未来に生きるべきだと背中を押す。そのセリフが泣ける。

お前は宝クジの当たり券を持っていながら、それを現金に換える勇気がない。一生それをケツに敷いて暮らす気なのか。もっと自分の幸せに向かって自信を持って生きろ。もし何十年経ってもこの町で一緒にいたら、俺が許さない。

俺はこう思ってる。一番のスリルは車を降りてお前んちの玄関に行く10秒前。ノックしてもお前は出てこない。何の挨拶もなくお前は消えている。そうなればいい。


『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』の脚本は、マット・デイモンとベン・アフレックが書いた。二人は実際に南ボストンのアイリッシュ・コミュニティで育った小学生時代からの幼馴染み。俳優としてまだ無名だった学生時代のデイモンが1992年に執筆した戯曲を、親友のアフレックに見せたのがすべての始まりだった。

予告編










*日本公開時チラシ

*参考・引用/『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』パンフレット
*このコラムは2019年12月に公開されたものを更新しました。

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

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