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私にとって音楽は神聖なる世界~ローラ・ニーロ「クリスマス・イン・マイ・ソウル」

2024.04.06

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1960年代後半のアメリカでは、ベトナム戦争に対する反戦運動が次第に激化し、黒人公民権運動に始まる革命の嵐が吹き荒れた。

1968年の民主党大会で暴動を企てたシカゴ・セヴンは無罪となったが、黒人解放闘争を展開していた過激な組織ブラック・パンサーのボビー・シールは有罪となった。

ニューヨークのブロンクスで生まれたローラ・ニーロは、マンハッタンのミュージック・アンド・アート・ハイスクールで音楽を学びながら、当時のアメリカを肌で感じていた。

十代でマイルス・デイヴィスとジョン・コルトレーンに夢中になった彼女の興味をひくものは、アートとポエトリーと音楽だった。


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そんな時代のまっただ中の1969年に発売された、「あなたは街のように見えるけど、私には宗教のように感じられる」と歌った表題曲を含むアルバム『ニューヨーク・テンダベリー』は、彼女のアルバムの中で最も売れたアルバムだ。

収録されている「セイヴ・ザ・カントリー」は1968年に発売された先行シングルで、フィフス・ディメンションにもカヴァーされヒットした。同年8月にシカゴで開かれた民主党大会の日には、ラジオで1時間に1回の割合でオン・エアされたというプロテスト・ソング。


そして、翌年の1970年に発売されたアルバム『Christmas And The Beads Of Sweat』も、前作に続く彼女のメッセージが強く表れたアルバムで、日本盤のタイトルは『魂の叫び』と名付けられた。

プロデューサーは、アトランティック・レコードのアリフ・マーディンとザ・ラスカルズのフェリックス・キャバリエ。

レコードのA面にあたる1~5曲はマッスル・ショールズ・リズム・セクションのスワンパーズが主にバックの演奏をつとめ、B面の6~9曲はアリス・コルトレーンやジョー・ファレル、チャック・レイニー、ラルフ・マクドナルド、コーネル・デュプリーなどそうそうたるジャズ・メンが顔を揃えていることで、発売当時は音楽業界で話題を呼んだ。

しかし、音はソウルにもジャズにも寄らず、ローラのピアノとヴォーカルがまっすぐ中心を貫いている。
そして、このラストに収録されている「クリスマス・イン・マイ・ソウル」は、彼女の魂の叫びが崇高な祈りにまで昇華された7分に及ぶ大作なのだ。

私は祖国を愛している
戦争や苦痛の中で死に行くのを目の当たりにしても
私はこの無礼な通りを歩く
政治の罪
罪の政治
私の魂に影を落とす無情
クリスマスというのに

赤や銀に彩られた葉
木々の間を舞い落ちる白い雪
聖母たちは地獄の戦争を嘆き悲しむ
キャンドルを吹き消してノエルが立ち現れ
行方不明の愛が世界中に鳴り響く
クリスマスの日に

ブラック・パンサーの彼らは投獄された
シカゴ・セヴンと司法の物差し
マンハッタン島にいるホームレスのインディアン
神の子達は皆裁判にかけられ
そして
神の愛は全て流行遅れ
クリスマスという日に



ローラ・ニーロの歌には、政治的なメッセージが強く感じられるものも多い。
しかし、“音楽やアートに惹かれるのはそこに何か神聖なものを感じるから”と語る彼女が目指していたのは、音楽によってそれらを優しく包む一体感だった。

世の中を見回すと、あらゆるものに隔たりがある。何もかもが対立し合い、戦っている。すべてが、とは言わないけど、とても多くのものが反目し合っている。だから、ひとつになれること、優しさを感じられるものを、心は求める。それが究極のもの、この世で一番素敵なものなの。それを私は何度も音楽から感じとることができた。だからこそ私にとって音楽は、神聖なる世界のひとつの形なのよ。


強く優しく包み込むローラ・ニーロの音楽の祈りを、このクリスマスの日に。

(ミュージックソムリエ 阪口マサコ)


参考文献:「Inspiration」ポール・ゾロ著 丸山京子訳 アミューズブックス


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