ミュージックソムリエ

映画「サブマリン」から変わり始めたアークティック・モンキーズのロック

2017.05.08

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 一躍イギリスを代表するロックバンドになったアークティック・モンキーズの新たな始まりは、アレックスのソロ活動であった。彼は同世代のミュージシャン、マイルズ・ケインと共に新プロジェクト「ラスト・シャドウ・パペッツ」としてアルバムを発表する。
 このユニットの楽曲は60年代のオールティーズ・ポップスを参考にしており、アレックスのルーツ・ミュージックを再確認するための活動でもあった。



 この活動からわかるようにシャウトやリフが印象的な音楽を作り続けていたアークティック・モンキーズは、新たな可能性を模索し始めていた。
 そんな試みの結果完成したのが、2009年に発表されたアルバム『Humbug』である。リード曲の「Crying Lightning」は今までの曲と打って変わって重厚感のあるビートに、どこかどんよりしたようなヴォーカルが印象的である。この楽曲は、彼らの新境地となった。



 この曲のPVを監督したのが、リチャード・アイオアディである。彼はロックバンドのPVの監督として新進気鋭の存在として注目を集めていた。ちょうどリチャードは「Crying Lightning」を撮影した頃、初の長編映画作品「サブマリン」の撮影準備の真っ只中であった。
 アークティック・モンキーズと深い親交を持っていたリチャードは、アレックスに自分が初めて撮る映画の劇伴を依頼した。お互い映画を撮るのも、それに音楽をつけるのも初めての作業であったが彼らは共に1個の作品を作り上げていった。

 こうして完成したのが一本の映画と5曲の劇中歌である。「サブマリン」の舞台はウェールズの海に面した街で、主人公は少し風変わりな15歳の少年オリバー。彼の独白を交えて物語は進んで行く。彼は、妄想や恋、そして両親の離婚問題などに頭を悩ませながら日々を過ごしていく。物語自体にドラマチックな展開はなく、そしてテーマも離婚や恋人の母の病気などテーマも少し重い。



 しかしそれに反するようにどこか呑気で軽妙な語り口で物語は進み、そこに漂うムードは優しい。そんな物語の空気感を作り出している要素の一つが、劇中に流れるアレックスの歌声だ。



 普段はギターリフと荒々しい演奏とともにシャウトをするのが彼の声の魅力である。しかし、この映画の中ではアコースティック・ギターやピアノと共に聴こえるしゃがれた彼の声は、物語に寄り添うように優しい。
 映画に合った音楽を作る挑戦の過程で、彼は自分の声の新しい可能性に気がついたのである。
 映画は大々的にヒットしてはないものの、トロントやベルリンの国際映画祭で高い評価を得た。そして、アレックスの歌う劇中歌も彼の新境地として話題を集めたのだ。
 アークティック・モンキーズでデビューして5年。アレックスの新しい声はバンドに変革をもたらすことになる。

 「サブマリン」のサウンドトラックと1枚のアルバムのリリースを挟み、2013年にアークティック・モンキーズは『AM』というアルバムをリリースする。
 このアルバムではアレックスは荒々しいシャウトだけでなく、深みのある声を響かせる。「サブマリン」で手に入れた声がより円熟味を増し、完成されたのである。
 変わったのはアレックスだけではない。バンドの演奏も勢いだけではない堂々とした風格を帯び、力強いグルーヴが作りあげられているのだ。



 このアルバムは世界各国でチャート1位を記録し、ブリット・アワードをはじめとした多くの音楽賞を受賞した。またこの年は2007年以来、精力的に世界各地のフェスに出演した。
 アレックスはそれらのステージでオールバックに皮ジャンパーという身なりでステージに立った。まさにロックンローラーというイメージを具現化したような姿をして、4人は重厚感のある音を鳴らし多くのファンを熱狂させた。


Arctic Monkeys『Am』
Domino


一本の映画により彼らの新しい可能性は開き、アークティック・モンキーズは名実ともにロックンロールを背負って立つバンドになったのだった。

(文・吉田ボブ)

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