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多くのミュージシャンたちを魅了したヴォーカリスト、ヴァレリー・カーターの「ウー・チャイルド」

2018.03.05

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今まで多くのミュージシャンにカヴァーされ、映画やテレビ番組、CMなどにも繰り返し使用されてきた楽曲「ウー・チャイルド」。
誰もが必ずどこかで、一度は耳にしたことがある歌だろう。

オリジナルは1960年代にアメリカのシカゴで結成された兄弟ソウル・グループ、ファイヴ・ステアステップスが1970年にリリースしたシングル曲だ。
同時代にジャクソン・ファイヴがいたため、最初の兄弟ソウル・グループであると印象付ける意味で「ファースト・ファミリー・オヴ・ソウル」というキャッチ・フレーズがつけられたという。
「ウー・チャイルド」は当時大ヒットし、彼らは初のミリオン・セラーを記録、ゴールド・ディスクとなった。



その後、この曲は様々なミュージシャンによってカヴァーされてきたが、その中で忘れたくないのが、ヴァレリー・カーターの歌う「ウー・チャイルド」だ。
1977年のソロ・デビュー・アルバム『愛はすぐそばに』に収録されると、1979年には俳優マット・ディロンのデビュー作となった映画『レベルポイント』のラストシーンで使用され、サウンドトラック盤にも収録された。
派手さはないが、雰囲気のある歌声が一度聴いたら心を捉えて離さない。



1953年にフロリダで生まれたヴァレリー・カーターは、19歳の時に元フィフス・アヴェニュー・バンドのジョン・リンドらと、ハウディ・ムーンというバンドを結成する。
そしてアルバムを一枚発表するが、商業的には成功せず、短期間で解散してしまう。

その後、ハウディ・ムーンのアルバムをプロデュースした、リトル・フィートのローウェル・ジョージからの紹介で、ジャクソン・ブラウンやジェームス・テイラー、リンダ・ロンシュタットなどのアルバムやコンサートでバッキング・ヴォーカルの一員として、活躍するようになる。

そして1976年、彼女の声に魅了されたジョージ・マッセンバーグ、ローウェル・ジョージ、アース・ウィンド&ファイヤーのモーリス・ホワイトという3人による共同プロデュースのもと、ソロ・デビュー・アルバムが制作されることとなった。
ジョージ・マッセンバーグは、リンダ・ロンシュタットやアース・ウィンド&ファイヤーなどのアルバムのエンジニアとして活躍した人物で、このアルバムが初のプロデュース作品となった。
レコーディングではチャック・レイニー、ボブ・グローブ、ジェフ・ポーカロなどの人気セッション・ミュージシャンが集められ、コーラスにはジャクソン・ブラウンやデニース・ウィリアムスも参加している。これらの豪華な顔ぶれからも、当時の彼女への期待度と注目度がうかがえるのだ。

しかし、ヴァレリー自身はソロ・シンガーとして注目を浴びるよりも、バッキング・ヴォーカルとしての活動の方に居心地の良さを感じていたという。
また、彼女にはソングライターとしての一面もあり、ジュディ・コリンズやジャクソン・ブラウンなどへ楽曲提供もしていた。1978年にセカンド・アルバム『ワイルド・チャイルド』をリリースすると、スポットライトの光に耐えきれなくなったのか、しばらくの間ヴァレリーは音楽業界から身をひそめてしまうのだった。

1996年には18年ぶりとなるアルバム『ザ・ウェイ・イット・イズ』で復活を果たすも、その後ドラッグに手を染めてしまい、再び音楽活動から遠ざかってしまう。

決して目立とうとはせず、しかし存在感のあるヴォーカリスト、ヴァレリー・カーターが静かにこの世を去ったのは、2017年3月4日のことだった。
享年64歳。

彼女の名前は知らずとも、ジェームス・テイラーやリンダ・ロンシュタット、ジャクソン・ブラウン、リンゴ・スター、ドン・ヘンリー、クリストファー・クロス等々、数々のミュージシャンのバッキング・ヴォーカルを務めてきたその印象的な歌声は、今も多くの人たちの記憶に焼き付いていることだろう。


Valerie Carter『Just a Stone’s Throw Away』
SMJ

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