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ずっと真夜中でいいのに。が作り出すジャンルレスな音楽から感じる、次世代の日本語ポップスの可能性

2019.06.10

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90年代に幼少期を過ごし2010年代にデビューを果たしたミュージシャン、小袋成彬は、平成30年間の日本の音楽の変化についてこのように語っていた。

「90年代以降の音楽シーンって完全に文明開化に近い感じで、諸外国の音楽が流れてきたんですね。」

「とくに2010年代を境にジャンルがどんどん壊れてきているんです。インターネットで音楽を聴けるようになったということが大きな要因だと思います。でも、そもそも『ジャンル』というものはライターとかが勝手にくくるものなんで。そういったくくりが2000年代あたりから通用しなくなったし、俺が音楽を始めたころにはジャンルを意識していなかった気がします。」
(WASEDA LINKS Vol.37 インタビューより引用)


「ジャンルを意識しない」というのは、小袋のように平成を生きてきたミュージシャンの一つのキーワードになっている。
一つのジャンルにこだわるのではなく、異なるジャンルのエッセンスを組み合わせることで新しい音楽が次々と生まれているのだ。

そんな時代を象徴するアーティストが、女性ボーカリストACAね(あかね)による音楽ユニット「ずっと真夜中でいいのに。」である。
彼女のプロフィールや実際の姿は、イメージイラスト以外一切公開されていない。しかしずっと真夜中でいいのに。は、既存のジャンルに分類できない音楽で多くの若者たちを熱狂させている。

彼女の作品が世に知られるようになったきっかけは、2018年の6月にYouTubeに公開された一本のミュージックビデオだった。
「秒針を噛む」と題されたこの楽曲は、流麗なピアノとスラップベースが印象的なアップテンポなロックソングだ。


哀愁と力強さが同居したメロディに乗せて歌われる言葉は、耳に馴染みやすいものでありながら浮遊感のある響きを持ったものであった。
無名のアーティストが発表した動画はわずか1週間で20万再生を突破。現在では2000万回以上再生されている。

ずっと真夜中でいいのに。の楽曲からは、ロックやファンク、そしてボーカロイドまで、あらゆるジャンルの影響が垣間見える。
しかし、既存のジャンルでは分類できないような、オリジナリティを同時に感じさせるものであった。

そんな彼女のオリジナリティを支えているのは、ACAねが紡ぐメロディと言葉だ。そのことを象徴する楽曲が2枚目のシングルとして発表された「脳裏上のクラッカー」である。


Bメロに出てくるこのフレーズを、ACAねはこのような譜割で歌う。

ぐうぜんをさけびたくて/でもたんたんとかさをさして
なさけないほどの/あめ/ふらし/ながら/かえるよじゃあね

前半のフレーズを一息で歌い、後半ではまるでヒップホップのフロウのように言葉の音を刻んでいく。これは今までの日本語ポップスにはない、まったく新しいメロディと言葉であった。

彼女は自分自身の言葉やメロディに、あらゆる時代の音楽や言葉たちのエッセンスを取り入れることで、新しい日本語ポップスを生み出しているのだ。
そのような感覚は、やはりインターネットで様々な音楽や言葉にアクセスできるようになった時代だからこそ生まれたものである。

6月12日にリリースされるセカンドアルバム『今は今で誓いは笑みで』からはACAねが、さらなる新しい音楽を追い求めていることがうかがえる。
収録された6つの楽曲からは従来のロックサウンドだけでなく、ヒップホップやエレクトロ、アイリッシュ、日本の音頭など、より多様なエッセンスを感じさせる。



そして全ての楽曲に共通しているのは、自由さと新しさを感じさせるメロディと言葉たちだ。

ずっと真夜中でいいのに。は、新しい感覚によって、今までの日本語ポップスにはない音楽を生み出した。
そんな彼女のジャンルレスな音楽は、同世代の若者たちに支持されながら、平成のJ-POP以降の新しいスタンダードになっていく可能性が、十分にあるのではないだろうか。





ずっと真夜中でいいのに。 『今は今で誓いは笑みで 』
Universal Music

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