「アイ・ウォント・バック・ダウン」のイメージが沸き上がってきたのは、トム・ペティがホテルから借家へと車を走らせていた時だった。
♪俺は後ろを向きはしない
引き下がったりしない
地獄の入り口に立たされても
諦めたりしないのさ♪
少し前に、彼は家を失っていた。放火魔が、彼の家に火をつけたからである。
その時、家にはトムと、トムの家族、そしてハウス・キーパーがいた。幸いなことに、彼らは着の身着のまま、何とか逃げ出すことができたのである。
それからというもの、ホテルと借家の二重生活が始まった。創作用に借りたホテルから、家族が待つ借家まで車で往復するのが、トムの日課になっていた。
この曲をトムとともに仕上げたのが、ジェフ・リンである。トラヴェリング・ウィルベリーズを結成することになるこのふたりが作った楽曲には、3人のギタリストが参加している。
ひとりはジェフ・リン。
もうひとりは、ハートブレイカーズの盟友、マイク・キャンベル。
そして最後のひとりは、やはりトラヴェリング・ウィルベリーズの中心メンバー、ジョージ・ハリスンである。
プロモーション・ビデオでは、ジョージの後ろでリンゴ・スターがドラムスをたたいている。何とも豪華なメンバーである。
マイク・キャンベルが弾いているのは、ジョージのストラトキャスターだ。彼が「ロッキー」と名づけていた、お気に入りの一本である。
ジョージはこの他にも、トムたちの兄貴分として、驚くほど献身的にレコーディングに参加していた。
たとえば、この曲の歌入れの日、トムは風邪を引き、声も最悪だった。すると、ジョージはスタッフに生姜を買いに行かせ、スタジオで煎じ始めたのである。
インドで学んだのだろう。ジョージは、煎じた生姜を湿らせた布をトムのおでこに貼り、残ったものを加湿器に入れ、生姜のミストでスタジオを満たしたのである。
2000年の大統領選、ジョージ・ブッシュは「アイ・ウォント・バック・ダウン」を選挙キャンペーンに使おうとしている。民主党支持のトムは、もちろん拒否をした。そして、アル・ゴアの家で、この曲を披露した。
不屈の魂、というアメリカ人のハートに響くテーマを歌ったこの曲は、特に9.11の後、多くの人を励ましたと言われている。
「本当に多くの人から、この曲で辛い時期を乗り越えられたという言葉をかけられた。3分の歌にそんな力があるというのは、すごいことだよ」とトムは語っている。「ただ僕のところに、歌はやってくるだけなのに」


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