この「I’d Have You Anytime」は作詞の一部をボブ・ディランが協力し、イントロを含むリードギターでエリック・クラプトンが参加という豪華な布陣で製作されたジョージ・ハリスンの名曲である。
ジョージがビートルズ解散後の1970年に発表した初のソロアルバム『All Things Must Pass』の1曲目に収録されたもの。
同作は後に“70年代の幕開けを飾るロックの金字塔”とも評され、全英・全米ともに第1位を記録した彼のソロキャリアにおける代表作となった。
ジョージは、自伝でこの楽曲が生まれた経緯についてこんな風に語っている。
「当時、僕はザ・バンドに招待されてウッドストックを訪れていたんだ。ちょうど感謝祭の時期で、たしかジャッキー・ロマックスのプロデュースの仕事を終えたばかりだった。そう、ビートルズの『ホワイトアルバム』の直後のことだ。その頃、ボブ・ディランはバイク事故で首を傷めるという不幸な出来事に遭遇して以来、音楽シーンの表舞台から一時的に姿を消していたんだ。それでも曲作りなどは再開していて、僕がウッドストックへ行くほんの少し前には、アルバム『Nashville Skyline』を完成させていた。僕はボブの家に滞在し、奥さんのサラや子供たちとも親しくなった。ボブは色んな意味で神経質になっているみたいだったけど…3日目を迎える頃には、二人でギターを持ち出すようになったんだ。」
お互いの緊張もすっかりとけてきたので、ジョージはボブにあるリクエストしたという。
「何か言葉を書いてくれないか。」
気難しそうな口元を少しだけニヤリさせてディランがこう返す。
「コードを教えろよ。曲はどうやって作るんだい?」
そこでジョージはギターのコードを鳴らしはじめた。メジャーセブン、ディミニュシュ、オーギュメント…そんなコードを軽く押さえる。
次にGメジャーセブンのコードを弾いて、左手の指を同じ形のまま移動させて次のコード(B♭メジャーセブン)に移ったときにジョージは閃きを感じたという。
「冒頭の歌詞の部分が頭の中によぎったんだ。」
ここに入れておくれ
ずっとここにいたんだ
君の心の中に僕を入れておくれ
そしてジョージはギターを鳴らしながらもう一度ディランに水を向けた。
「さぁ何か言葉をくれよ!」
ディランはそれに呼応するかのようにペンを走らせた。
僕が手にするのは君だけ
君の目に映るのは僕だけ
君をこの腕に抱けることが嬉しい
いつだって君が欲しいんだ
ジョージは、その瞬間のことを鮮明に憶えていたという。
「素晴らしい!それで決まりだ!」
自伝ではディランの筆跡による作詞原稿を見ることもできる。
<引用元・参考文献『ジョージ・ハリスン自伝』著:ジョージ・ハリスン/訳:山川真理(河出書房新社)>