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浅川マキが愛した名曲〜ビリー・ホリデイの“奇妙な果実”を聴きながら

2025.01.17

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生前、浅川マキはステージでこの曲を歌う時に、こう呟いて唄いだすのだった。

「白人のリンチにあって、黒人が木に吊るされている。なんと奇妙な果実ではないか…」


1942年1月27日、浅川マキは石川県石川郡美川町という漁師町で生まれる。家が五軒しかないという集落で、妹と共に過ごした幼い頃に「美空ひばりを聴いて育った」という。

高校を卒業した彼女は町役場に就職したが…ほどなくして仕事を辞め、夜行列車に乗って東京に向かった。上京以来、敬愛してやまなかったビリー・ホリデイについて、彼女はあるインタビューでこんなことを語っている。

私はあるときからビリー・ホリデイの歌の中に“救いのない何か”が見える気がしている。私がこれまでに聴いた歌手の中には、心地良いものや、いい声や、慰安性の高いものはいっぱいあったが、それらの歌はすぐに通り過ぎて行ってしまう。だけどビリー・ホリデイの歌は、何か厭世(えんせい)とも思えるのかもしれない。


1967年、当時25才だった浅川マキは、「東京挽歌」という歌でレコードデビューする。しかし、その楽曲は、彼女が歌いたかった世界とはあまりにかけ離れていた。

その後、寺山修司によってその才能・存在感を見出され、1969年にシングル「夜が明けたら/かもめ」で再デビューを果たす。27歳、夏の出来事だった。

学生運動、70年安保闘争という時代の中、それは“アングラの女王”と呼ばれた彼女にとって、一筋のスポットライトがあたり始めた時期でもあった。


浅川マキは、ビリー・ホリデイが歌う「Strange Fruit(奇妙な果実)」をこよなく愛していた。

この歌は1938年に、ニューヨーク市マンハッタンにあったレコード店のオーナー、ミルト・ゲイブラーによって設立された独立系のレコードレーベル、“コモドアレコード”から世に送り出された名曲である。人種問題にまつわる歌詞の内容で、大手のレコード会社が尻込みしたことでも有名だ。

歌い方にハッタリとかね…そういうのが全然ないのよ。彼女の歌っていうのは、あんまり押さえつけてくるっていう歌い方じゃないけど、聴けば聴くほど麻薬みたいにこっちがのめり込んじゃうわけよね。麻薬で死んでしまったという彼女と、そういう唱法とがね…何かすごくいつまでも人の心をとらえて離さないみたいな。


どこかで“奇妙な果実”が吊るされる…そんなことが起こる社会なんて、誰一人として望んではいないはずだ。

南部の木々に奇妙な果実がある
葉は血に濡れ赤い血が根に滴っている

飛び出した眼 歪んだ口
木蓮の甘く爽やかな香り
そこに突然漂う焼けた肉の臭い
此処にも一つ カラスの餌となる果実がある



ブルー・スピリット・ブルース(紙ジャケット仕様)


奇妙な果実

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執筆者
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