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挫折を知る者の歌〜それはスポットライトではない

2026.01.16

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器用に生きれない人。挫折を味わったことのある者だからこそ唄える“歌”がある。彼らだけが知っている本当の優しさ、本物の強さを。そして“あの光”の正体を。

2010年1月17日、浅川マキは心不全でこの世を去った。享年67。「アングラの女王、逝く」と、翌日の新聞に訃報記事が小さく載った。

1976年、当時33歳だった浅川マキは、「It’s Not The Spotlight」という曲を日本語詞で歌った。原詞は「スポットライトみたいに輝く瞳の彼女と別れてしまった。でもまたいつか彼女とよりを戻したい」といった内容の未練節。浅川はそれを自己流に訳し、「永遠に失ってしまったもの。輝いていたあの頃の光」として、器用に生きられない男の心情を歌に込めた。

遡ること3年。その曲はアメリカで誕生した。キャロル・キングの元夫でもあるジェリー・ゴフィンと、敏腕セッション・キーボーディストのバリー・ゴールドバーグによって共作された。そして人気ロックアーティストのロッド・スチュワートが、本格的なアメリカ進出を賭けて発表したアルバム『アトランティック・クロッシング』(1975年)の中でカバーし、広く知られるようになる。

「器用じゃないのかもしれない。でもやっぱり自分で納得のいかないものは歌いたくない。メロディーっていうより詞の方ですね。やっぱり詞が納得いかないものっていうのはとても嫌ですね。だからワタシは売れない」

1942年1月27日、浅川マキは石川県石川郡美川町という漁師町で生まれた。家が五軒しかないという集落で妹と共に過ごした幼い頃に、美空ひばりを聴いて育った。その歌い手は、光り輝くスポットライトを浴びていた。

高校を卒業すると町役場に就職し、国民年金の窓口係を担当する。しかし、ほどなくして役場を辞め、夜行列車に乗って東京に向かった。「法律の勉強をするため」と言い残すも、ただ町を出たかっただけなのかもしれない。

全国のキャバレーや沖縄米軍キャンプ、そして新宿の歌声喫茶『灯』で、ゴスペルやブルース、ジャズを歌い始めた。1967年、25歳でレコードデビュー。しかし「東京挽歌」は、浅川が歌いたかった世界とはあまりにかけ離れていた。

その後、寺山修司によってその才能・存在感を見出され、1969年にシングル「夜が明けたら/かもめ」で再デビューを果たす。学生運動、70年安保闘争という時代の中、それは「アングラの女王」と呼ばれた浅川マキにとって、一筋のスポットライトを浴びた時期でもあった。

それからというもの、寺山修司に始まり、松田優作、原田芳雄、菅原文太など、彼女の周りには才能豊で、少し不器用な“タバコの匂いのする男”ばかりが集った。自身も愛煙家であり、ステージ上でもタバコを燻らせながら歌っていた。

上京以来、敬愛してやまなかったビリー・ホリデイや、幼い頃から好きな美空ひばりが、どんな曲でも自分の感情にひきつけて歌いこなす天才的な歌手だったのと異なり、浅川は肌に合わない曲は絶対に歌わなかった。

そのスタイルは約40年間貫かれ……2010年1月17日、午後7時46分。浅川マキは、公演先の名古屋のホテルで冷たい身体となって発見された。

初日、二日目と満員御礼だった三日連続公演の最終日。そこに彼女は現れなかった。その夜、小さな老舗ライヴハウスのスポットライトが、蒼白いタバコの煙を静かに照らし出していた。


才能豊で少し不器用な“タバコの匂いのする男”
ステージにおいては、泉谷しげる、仲井戸麗市、坂本龍一、吉田拓郎、渋谷毅、山下洋輔、近藤等則、つのだひろ、後藤次利などの名立たるミュージシャン達と深い交流があった。


参考文献:『ロング・グッドバイ-浅川マキの世界』(白夜書房)

浅川マキ『Long Good- bye』
2010年/EMIミュージックジャパン
<解説>

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