♪ ほら、太陽が顔を出した
ほら、太陽が顔を出した
最高な気分さ ♪
イギリスの冬は暗く、長い。
だからこそ、春の日差しを待ちわびるのだ。
ジョン・レノンも「アイ・アム・ザ・ウォラス」の中で、「イングリッシュ・ガーデン(英国式庭園)に座り、太陽が顔を見せるのを待っている」と歌っている。
そう、ジョンがそう歌ったように、その時、ジョージ・ハリスンはギターを手に、庭にいた。彼の家ではない。親友エリック・クラプトンの家の庭である。
1967年。ビートルズのメンバーは冬の空のように鬱屈とした日々を過ごしていた。
彼らを育て上げたマネージャー、ブライアン・エプスタインが突然この世を去ってからというもの、メンバーは音楽のことではなく、会計やビジネスのことで頭を悩ますことが増えていた。
ジョージはそんな日々から逃げるようにして、エリック・クラプトンの家を訪れていたのである。
ドキュメンタリー映画『ザ・マテリアル・ワールド』の中で、クラプトンはこう語っている。
「あれは、美しい春の朝のことだ。4月に入ってからのことだと思う。私とジョージは、ギターを携えて庭を散歩していた。いつもの私なら、そんなことはしないんだが。その状況を作り出したのはジョージだっていうことさ。彼は魔法を使う男なんだ」
ふたりは庭に腰をおろした。
「すると、太陽が輝き始めたんだ。美しい朝だった。そしてジョージはオープニングのメロディーを口づさみ始めたんだよ」
♪ ほら、太陽が顔を出した
ほら、太陽が顔を出した
最高な気分さ ♪
「私は、あの歌がこの世に生を受けた瞬間を目撃したのさ」
クラプトンはそう回想している。
「ヒア・カムズ・ザ・サン」の演奏部分が(クラプトンの在籍していた)クリームのヒット曲「バッジ」に似ているのには、理由がある。「バッジ」は、ジョージがクラプトンと一緒に書いた曲だったのである。
♪ リトル・ダーリン
長く寒く孤独な冬だった
リトル・ダーリン
君がいなくなってから何年も過ぎたように思える ♪
リトル・ダーリンは、「太陽」のことだ。
♪ リトル・ダーリン
みんなの顔に笑みが戻っていく
リトル・ダーリン
君がいなくなってから何年も過ぎたように思える ♪
この節では、リトル・ダーリンは「笑顔」のことだ。
「ヒア・カムズ・ザ・サン」は、ビートルズ最後のレコーディングとなったアルバム『アビーロード』に収録されることになる。
ジョージは、バンドにも春がやってくることを望んでいた。
だが、ビートルズのメンバーに笑顔が戻ることはなかったのである。
寒い季節。
寒い時代。
「太陽」が、「笑顔」が訪れる日を僕らも待っている。
(このコラムは2015年1月22日に公開されました)