スカボローの市に行くのなら
パセリ、セージ。ローズマリーにタイム
その地にいる人に宜しく伝えてほしい
彼女はかつて、私の真の恋人でした
サイモン&ガーファンクルの「スカボロー・フェア」には、呪文のような薬草が登場します。
カンブリックのシャツを作ってくれるよう
彼女に伝えてほしい
パセリ、セージ、ローズマリーにタイム
継ぎ目も縫い目もないシャツを
そうすれば彼女は私の真の恋人になるのです
この謎めいた歌は、中世から歌い継がれてきた民謡でした。まだ、吟遊詩人が世を謳歌していた時代。ミネラル・ウォーターの産地でもあったスカボローは、英国式にはスカーブラと表記されますが、ノース・ヨークシャーの北海に面した町で、毎年夏には45日間、大きな市が開かれていました。
グーテンベルグが1445年に活版印刷機を発明すると、歌詞も印刷されるようになり、吟遊詩人の数は減っていくことになりますが、民謡は歌い継がれていきました。
そして、印刷されるようになった民謡集の中に、「パセリ、セージ。ローズマリーにタイム」という歌詞が記されているのです。この4つの薬草は、魔除けの呪文とも、愛するものを手にするための徳のメタファーだとも言われています。
パセリは、慰め。
セージは、力。
ローズマリーは、愛。
タイムは、勇気。
七草ならぬ、愛の四草ですね。古くから伝わる民謡集に収められた「エルフィン・ナイト」には次のような歌詞が登場します。
襟もなく、裁断もせず
我がシャツを作り給え
と彼は言う
妖精の騎士(エルフィン・ナイト)に恋焦がれた乙女の元に現れた騎士が、彼女に語る台詞です。
ポール・サイモンは1964年、サイモン&ガーファンクルとしてのデビュー・アルバム『水曜の朝、午前3時』がまったく売れず、失意の中、イギリスを訪れています。
彼はそこで、古い民謡を現代的なアレンジで歌うフォーク・シンガーに出会いました。ポールと同じ1941年生まれのマーティン・カシーです。
このマーティン・カシーに、ポール・サイモンより先に出会っていたのが、1962年にイギリスを訪れていたボブ・ディランです。ボブ・ディランはカシーの曲を下敷きに、雰囲気だけは受け継ぎ、歌詞は新しく書き換えて「北国の少女」を書いたのです。
もし君が
国境沿いに強い風が吹きつける
北国の市に行くのなら
その地に住む人に宜しく伝えてほしい
彼女はかつて私の恋人だった
Parsley, Sage, Rosemary and Thyme
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(このコラムは2016年1月7日に公開されました)