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「スカボロー・フェア」と愛の四草

2019.05.02

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♪ スカボローの市に行くのなら
  パセリ、セージ。ローズマリーにタイム
  その地にいる人に宜しく伝えてほしい
  彼女はかつて、私の真の恋人でした  ♪


サイモン&ガーファンクルの「スカボロー・フェア」には、呪文のような薬草が登場します。

♪ カンブリックのシャツを作ってくれるよう
  彼女に伝えてほしい
  パセリ、セージ、ローズマリーにタイム
  継ぎ目も縫い目もないシャツを
  そうすれば彼女は私の真の恋人になるのです ♪


この謎めいた歌は、中世から歌い継がれてきた民謡でした。
まだ、吟遊詩人が世を謳歌していた時代。ミネラル・ウォーターの産地でもあったスカボローは、英国式にはスカーブラと表記されますが、ノース・ヨークシャーの北海に面した町で、毎年夏には45日間、大きな市が開かれていました。

グーテンベルグが1445年に活版印刷機を発明すると、歌詞も印刷されるようになり、吟遊詩人の数は減っていくことになりますが、民謡は歌い継がれていきました。
そして、印刷されるようになった民謡集の中に、「パセリ、セージ。ローズマリーにタイム」という歌詞が記されているのです。
この4つの薬草は、魔除けの呪文とも、愛するものを手にするための徳のメタファーだとも言われています。

パセリは、慰め。
セージは、力。
ローズマリーは、愛。
タイムは、勇気。

七草ならぬ、愛の四草ですね。
古くから伝わる民謡集に収められた「エルフィン・ナイト」には次のような歌詞が登場します。

♪ 襟もなく、裁断もせず
  我がシャツを作り給え
  と彼は言う      ♪


妖精の騎士(エルフィン・ナイト)に恋焦がれた乙女の元に現れた騎士が彼女に語る台詞です。

ポール・サイモンは1964年、サイモン&ガーファンクルとしてのデビュー・アルバム『水曜の朝、午前3時』がまったく売れず、失意の中、イギリスを訪れています。
彼はそこで、古い民謡を現代的なアレンジで歌うフォーク・シンガーに出会いました。ポールと同じ1941年生まれのマーティン・カシーです。

このマーティン・カシーに、ポール・サイモンより先に出会っていたのが、1962年にイギリスを訪れていたボブ・ディランです。ボブ・ディランはカシーの曲を下敷きに、雰囲気だけは受け継ぎ、歌詞は新しく書き換えて「北国の少女」を書いたのです。

♪ もし君が
  国境沿いに強い風が吹きつける
  北国の市に行くのなら
  その地に住む人に宜しく伝えてほしい
  彼女はかつて私の恋人だった     ♪




ところで。。。

1月7日。七草の節句。
古来中国では、この日を人日(じんじつ)と呼んだそうな。
お正月に殺生はいけない、ということで、
1日は、鶏を。
2日は、犬を。
3日は、豚を。
4日は、羊を。
5日は、牛を。
6日は、馬を。
そして7日は、人を殺すことを禁じたそうな。
何だか、物騒な話です。

でもまぁ、この日くらいは、菜食に徹してみるのも悪くないでしょう。肉ばかり食べてるよりは、妖精に会えそうな気もしてきますから。




(このコラムは2016年1月7日に公開されました)

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