Welcome to the New Power Generation──1988年発表のアルバム『Lovesexy』の冒頭でプリンスが発したこの言葉は、彼が考える新しい未来、そして音楽家としての新章を予言するものだった。
2016年4月21日、57歳という若さで突然この世を去ったプリンス。彼の音楽を支えるバンドといえば、多くの人が思い浮かべるのが〈ザ・レヴォリューション〉だろう。
デビュー当初からのツアー・バンドを母体にしたこのザ・レヴォリューションは、途中から加わったギターのウェンディとキーボードのリサという確かな腕とセンスを持つ個性派女性プレイヤーなど、さまざまな人種や性別が混在するバンド構成も特徴的。それはそのままプリンスが生み出すR&Bもファンクもハード・ロックもニュー・ウェイヴもテクノもポップスもすべてのジャンルを打ち破ろうとする、まさに革命的な音楽性を体現するものでもあった。
『1999』(1982年)からレコーディング面でもバンドが寄与するようになり、プリンス&ザ・レヴォリューション名義で『Purple Rain』(1984年)、『Around The World In A Day』(1985年)、『Parade』(1986年)といった大ヒット・アルバムを送り出すが、1986年にザ・レヴォリューションは解散する。
その後、黒人音楽への回帰志向を感じさせる大作『Sign O’ The Times』(1987年)を挟んでリリースされたのが、冒頭に記した『Lovesexy』だ。
このアルバムで高らかに宣言された〈New Power Generation〉というスローガンは、1990年のアルバム『Graffiti Bridge』では曲名となり、続く『Diamonds And Pearls』(1991年)では〈Prince & The New Power Generation〉というバンド名となった。それは言うなれば、プリンスの音楽表現における哲学のようなものだったのだろう。
ザ・ニュー・パワー・ジェネレーションは、バンドとして動いていた2013年までの間に多くのメンバーが出入りしている。
迫力あるコーラスを聴かせたロージー・ゲインズなどその時々で個性を発揮したメンバーはいるものの、プレイヤー個々のパーソナルを際立たせていたザ・レヴォリューションとは一線を画すように、プリンスの求めるサウンドを忠実に再現していくプロフェッショナルな楽団といった趣だ。
またサウンド面においても、ロックやニュー・ウェイヴ色が強いザ・レヴォリューションに比べると、ジャズやファンクなどのエッセンスを強め、生音のグルーヴを前面に打ち出したサウンドへと変遷していく。
ザ・ニュー・パワー・ジェネレーションとの共同作業で生まれた初のアルバム『Diamonds And Pearls』は、優美なバラードの表題曲や「Money Don’t Matter 2 Night」などのヒット曲を生む。
続く『Love Symbol(*実際はオリジナルの記号表記)』でも、ジャズ・ファンク調の「Sexy M.F.」や、オーティス・レディング&カーラ・トーマスによる60年代R&Bの名曲「Tramp」をサンプリングした「7」など、隆盛するヒップホップ・カルチャーと接近しつつも独自のスタンスを取り、プリンス流のポップ・ミュージックへと昇華していった。
そうした中で、当時副社長を務めるまでになっていた所属レーベル=ワーナーとの関係が悪化。1993年には、今後新曲をワーナーに渡さないと宣言。
『Come』(1993年)を発表後、ワーナーとの契約が残っている最中に、プリンスは自らの名前を封印し例のシンボルマークだけの表記で〈the Artist Formerly Known As Prince(=かつてプリンスとして知られたアーティスト)〉として活動をはじめる。
1994年には個人レーベル〈NPG Records(*もちろんNPGはNew Power Generationの略)〉を立ち上げ、翌年『Gold Experience』を発表。先行シングルとなった「The Most Beautiful Girl in the World」を筆頭に、実に伸びやかで風通しのいい傑作を送り出す。同年にはニュー・パワー・ジェネーション単独名義でもアルバム『Gold Nigga』を発表。その後も『Exodus』(1995年)、『New Power Soul』(1998年)と、ニュー・パワー・ジェネーションの作品は続いた。
NPG Recordsの立ち上げ以降、制作からプロモーションやディストリビューションに至るまで、すべてを自らのコントロール下におくことで、自由な創作環境を構築していき、彼の多作ぶりに拍車がかかる。
CD3枚組の超大作『Emancipation』(1996年/発売元はEMI)、アーニー・デフランコやグウェン・ステファニー、シェリル・クロウ、チャック・Dらが豪華ゲストを招いた『Rave Un2 The Joy Fantastic』(1999年/発売元はアリスタ)と作品ごとにメジャーの流通網を使い分けていく。
一方でアルバム・タイトルが通販の電話番号となっているコンピ盤『1-800 NEW FUNK』(1994年)を発表。その後もファンクラブサイトから音源データを販売するなど、アーティストからダイレクトに音楽を届けるシステムを逸早く取り入れ、音楽の発信の仕方においてもさまざまな試みに挑んできた。
2000年代に入り、ワーナーの契約が切れたことをきっかけに再び名前を戻したプリンスは、オーガニックでジャジーなサウンドが新鮮な『Rainbow Children』(2001年)をリリース。
さらに60年代ソウルから最新のヒップホップまでブラック・ミュージックの変遷に向き合ったような『Musicolgy』(2004年)、「Kiss」を彷彿させるミニマルなファンク・ナンバー「Black Sweat」をはじめ、80年代プリンスのニオイがゼロ年代のアップ・トゥ・デートなトレンドと見事に共鳴した『3121』(2006年)、発売前にCDを新聞の付録として無料配布したことも話題となった『Planet Earth』(2007年)など、傑作アルバムを次々に輩出していく。
とかく80年代の活躍に注目が集まるプリンスであるが、こうして振り返ると1990年代に突入してからもまったく創作意欲が枯れていないのがすごいところだ。
さまざまな経験が裏打ちする円熟や豊穣と、デビュー以来変わらぬ先鋭性を併せ持ったような作品を数多く世に送り出してきた。さらに言えば年齢を重ねていくごとに、既存のセオリーやシステムに囚われない自由なスタンスを研ぎ澄ませていったこともわかる。
ザ・ニュー・パワー・ジェネレーションを従えていた1990年代、そしてアグレッシヴな姿勢をより明確にしていった2000年代こそが、プリンスの真の充実期と言っても過言ではないだろう。
そんなザ・ニュー・パワー・ジェネレーションによるプリンス・トリビュート・ライブが東京・大阪にて開催される。
NPG最後のベーシストだったアンドリュー・ゴーチ、プリンスの生前最後のアルバム『HITNRUN Phase Two』にも参加しているサックス奏者のマーカス・アンダーソンをはじめ、プリンスに所縁の深い実力派ミュージシャンたちが、プリンスの名曲の数々を奏でていく。
折しも先日、NPG Recordsの作品群の発売ライセンス権をユニバーサル・ミュージック・グループが獲得し、『Emancipation』や『Musicology』『3121』をはじめとする名盤の数々がリリースしていくことが決定したというニュースが飛び込んできたばかり。ザ・ニュー・パワー・ジェネレーションが生で奏でる熱いステージで、プリンスというアーティストの偉大な足跡をあらためて振り返ってみてはいかがだろう。
THE NEW POWER GENERATION tribute to PRINCE
2017年3月29日(水)ビルボードライブ大阪 →詳細はコチラ
2017年3月31日(金)~4月2日(日) ビルボードライブ東京 →詳細はコチラ
BAND MEMBERS
アンドリュー・ゴーチ / Andrew Gouche (Musical Director, Bass & Vocals)
ゴードン・キャンベル / Gorden Campbell (Drums)
カサンドラ・オニール / Cassandra O’Neal(Keyboards & Vocals)
リック・マーセル / Rick Marcel (Lead Guitar & Vocals)
マルクス・アンダーソン / Marcus Anderson (Sax & Vocals)
リン・グリセット / Lynn Grissett (Trumpet)
エイドリアン・クラッチフィールド / Adrian Crutchfield (Sax & Vocals)
ジョーイ・レイフィールド / Joey Rayfield (Trombone)
バーナード・”BK”・ジャクソン / Bernard “BK” Jackson (Baritone Sax & Vocals)
参考資料:『CROSS BEAT Special Edition プリンス』(シンコーミュージック)、西寺郷太『プリンス論』(新潮社)、モビーン・アザール『プリンス 1958-2016』(スペースシャワーネットワーク)、『現代思想8月臨時増刊号 プリンス1958-2016』(青土社)、BillboardJAPAN特集「”People around PRINCE” 証言から紐解くプリンス」
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