1980年代前半に、イギリスで一大ムーブメントを巻き起こした2トーン・レーベルとスカ・ブーム。しかし、ワム!やデュラン・デュラン、カルチャー・クラブといった面々が台頭すると、その新しい波に押し流されるようにしてブームはあっけなく収束してしまう。
そんな2トーンのサウンドを受け継いだのが、海を超えたアメリカで1992年にデビューしたバンド、ノー・ダウトだった。
ボーカルのグウェン・ルネイ・ステファニーが生まれたのは1969年10月3日。グウェンという名前は、1968年に発行されたアーサー・ヘイリーの小説「大空港」に登場する人物から。ミドル・ネームは、モータウンのフォー・トップスがカバーしてヒットさせた「ウォーク・アウェイ・ルネイ」から取って付けられた。
ロサンゼルスの南東に位置する、オレンジ・カウンティで生まれ育ったグウェン。よく耳にしていたのは両親が好きだったという、ボブ・ディランやエミルー・ハリスといったフォーク・ミュージックだったという。
そんな彼女が2トーン・レーベル出身のスカ・バンドと出会ったのは、まだ高校生だった1986年。兄に薦められて聴いたのがきっかけだった。
「マッドネスにスペシャルズ、ザ・セレクターね。私が初めてその音楽に出会ったとき、彼らはまさにアンダーグラウンドな存在だったわ」
彼らはイギリスでこそトップ10入りの常連だったが、アメリカではシングルもアルバムもヒットせず、ほとんどは50位以内に入ることもできなかった。
2トーンの音楽と出会ったグウェンは、「私の人生はスカとともにあるわ」というほどスカに夢中になる。それがきっかけとなり、兄のエリックとともにアップル・コアというスカ・バンドを結成。のちにバンド名はノー・ダウトとなった。
当初はコーラスとして参加していたグウェンだったが、メンバー・チェンジを繰り返す中で、メイン・ボーカルへと昇格。1992年には1stアルバム『ノー・ダウト』で念願のデビューを果たす。
スカを根底に感じさせつつ、様々なジャンルの音楽をミックスさせた意欲作だったが、当時のアメリカではニルヴァーナを筆頭にした退廃的な雰囲気の漂うグランジが支持を集めており、デビュー・アルバムは全くヒットせずに終わってしまう。
その後も苦難の日々が続き、1994年にはスカを教えてくれ、バンドの中心として牽引してきた兄のエリックが脱退。
風向きが変わったのは、1995年の10月に3rdアルバム『トラジック・キングダム』をリリースしてからだ。
このアルバムは地道なプロモーションと、リード・シングル「ドント・スピーク」がラジオから火がついたことによってじわじわと売上を伸ばしていき、リリースから1年以上が過ぎた1996年の12月に、ついに全米チャート1位を獲得する。最終的には全世界で1600万枚を売り上げる大ヒットとなった。
イギリスで過去のものとなっていた2トーンのサウンドは、2トーンのまったくウケなかったアメリカで誕生したバンドに受け継がれ、全世界へと広まっていくのだった。
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