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酒とバラの日々〜アルコールに溺れてあらゆるものを失う男と女の物語

2024.06.13

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『酒とバラの日々』(Days of Wine and Roses/1962)


『酒とバラの日々』(Days of Wine and Roses/1962)は、アルコールに溺れた夫婦が何もかもを失いながらも、最後の一滴のような愛を見つけ出して、必死に現実と未来に向き合おうとする姿を描いた名作だった。

酒や薬物やギャンブルに過度に溺れ、葛藤と苦悩を繰り返す人間の姿──これまでTAP the SCENEで紹介してきた映画の中にはそんなシーンがたくさんあったことに気づく。

例えば酒一つとっても、『バーフライ』の作家は酒のせいで都会の掃き溜めで才能を浪費する日々を送っている。『クレイジー・ハート』のミュージシャンは酒による失敗で運命の女性から愛想を尽かされる。そして『リービング・ラスベガス』の脚本家は、すでに覚悟を決めて死ぬために飲み続けていた。モンマルトルのボヘミアンたちのように禁断の酒アブサンに浸りながら芸術作品を生み出した時代と違っていたのは、登場人物たちがみんな孤独だったということだ。

自己嫌悪に陥るたびに、自己再生を誓う姿。にも関わらずそれを得るためなら周囲に嘘をつき、自分を哀れみ、正当化し、大切な人を裏切る姿。仕事や金を失い、家庭やロマンスを失い、時間と健康を失い、信頼と未来を失い……得るものといえば、卑劣な思考と悪夢のような幻覚、そして人生に対する不安だけだ。

経験したことのある人なら分かるだろう。これは暗闇の中をずっと手探りで浮遊しながら彷徨うようなものだ。そこから抜け出す方法はただ一つ。光を見たければ、結局は「こんなことに屈してはならない」という自らの意思で壁をぶち壊すしかない。なぜならそこは出口のない迷路。圧倒的な孤独な世界。人間的成長が一時停止されている状況下では、他人の人生のナビゲーションなどBGMにしか聞こえない。

『酒とバラの日々』の主人公、ジョー(ジャック・レモン)の仕事はPR会社のサラリーマン。PRと言っても名だけで、実際は担当するアラブの石油会社の王子たちのために船上パーティを開き、プロの女の子たちを供給するのが役割の日々。「企業がいいことをしたらそれを広めるのがPRの仕事」と説明できるが、「悪いことをしたら?」の問いには思わず言葉が詰まってしまう。独身でパートナーもなく、都会の生活で仕事にもロマンスにも満足していない。だから酒の量が増えている。

ある夜、大会社の秘書カーステン(リー・レミック)をエスコートクラブのプロと勘違いし、彼女を怒らせてしまうジョー。何度も詫びてデートに誘った結果、チョコレート好きなカーステンに口当たりのいい甘いカクテル「ブランデー・アレクサンダー」を教えた。次第に愛し合った二人は結婚するが、田舎で植物園を経営するカーステンの父親は保守的で、二人を祝福しない。虚しさからカーステンは自ら酒を求めた。

子供が生まれ、都会の高級アパートで幸せな日々を送っているように見える二人だったが、ジョーは仕事の付き合いを理由に相変わらず酒を飲み続けて帰宅時間が遅い。カーステンも一人で子育てすることの寂しさから、いよいよ本格的に酒に手を出していく。一方のジョーは飲酒が原因による商談の失敗が目立ち始め、とうとう職を失う。

酒に溺れた結果、職を転々とし、生活が底をついた時、二人はカーステンの父親を頼って再生を誓う。禁酒のおかげで見違えるような健康的な日々を送る二人だが、長くは続かない。温室に並んだ鉢の中に隠しておいた酒を、深夜に吹き荒れる嵐の中で必死に探し出そうとするジョーの姿は恐ろしい。

更生施設に強制入院させられたジョーは、地獄のような禁断症状を乗り越え、酒を断つ人生を自らと妻に課す。しかしカーステンは自分をアル中だと認めず、相変わらず自堕落な生活を続けて家にも帰って来ない。やっとの思いで見つけ出したのも束の間、彼女の懇願でジョーはまたしても酒に手を出してしまう……。

監督と作曲家は『ティファニーで朝食を』(1961)のコンビ、ブレイク・エドワーズとヘンリー・マンシーニ。カクテルのように甘い調べのタイトル曲は、ジャズやポピュラー系のミュージシャンたちに何度もカバーされて永遠のスタンダードナンバーになった。

それにしても人はなぜ酒や麻薬やギャンブルに溺れるのか? 次回ではアル中映画の古典『失われた週末』を通じてその原因と向き合ってみたい。


予告編

『酒とバラの日々』

『酒とバラの日々』



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*アメリカ公開時ポスター

*このコラムは2019年6月に公開されたものを更新しました。

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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