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ボブ・マーリィがカーティス・メイフィールドから受け継いだ救いの歌 「ワン・ラヴ/ピープル・ゲット・レディ」

2017.05.16

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ボブ・マーリィ&ザ・ウェイラーズの最高傑作との呼び声高い1977年のアルバム『エクソダス』。
その最後に収められている「ワン・ラヴ/ピープル・ゲット・レディ」はボブの代表曲のひとつとして知られているが、この歌はもともと「ワン・ラヴ」というタイトルだった。

ロバート・ネスタ・マーリィが生まれたのは1945年の2月6日。
父はイギリスの海軍大尉で、母とは45歳も年が離れていた。
両親はすぐに離婚したものの父からの仕送りもあって、貧しいながらも学校に通える程度の生活は維持できていた。
ところが1955年に父が亡くなると仕送りもなくなってしまい、ボブは家族とともにキングストンのスラム街、トレンチタウンへの移住を余儀なくされる。

暴力と貧困、病気が蔓延するこの街で、ボブは幼馴染のバニー・ウェイラーとともにシンガーになることを志す。学校の教師の「書ける人は書きなさい、歌える人は歌いなさい」という言葉がきっかけだった。
そんな2人が音楽を聴く数少ない手段のひとつがラジオだった。レコードは贅沢品であり、到底手に入れられるようなものではなかったのだ。
2人の心を掴んだのは、アメリカから届けられる力強い低音の響くリズム&ブルースやソウルだった。中でもお気に入りだったのは、カーティス・メイフィールドを擁するインプレッションズや、ドリフターズのようなコーラスグループだった。

やがて彼らのもとにピーター・トッシュという新たな仲間が加わると、劇的な変化がもたらされた。
ボーカルが3人になったことで、彼らが目指していたインプレッションズのようなハーモニーが生まれたのだ。
ピーターはインプレッションズの「ジプシー・ウーマン」やドリフターズの「ゼア・ゴーズ・マイ・ベイビー」のコーラスをコピーできるようになったことに驚きと興奮を覚えたという。

3人はメンバーをさらに増やしてウェイリング・ウェイラーズを結成すると、1963年末に「シマー・ダウン」でレコードデビューを果たし、翌年2月にはラジオのチャートで1位を獲得する。その後も次々とヒットを連発し、ウェイラーズはあっという間に若者たちのカリスマとなるのだった。



その頃、アメリカではキング牧師を中心とした公民権運動の機運が盛り上がっていた。
インプレッションズのカーティス・メイフィールドは、そんな時代の流れに呼応するかのように、「イッツ・オール・ライト」のようなメッセージ・ソングを書き、黒人から熱い支持を得る。(詳しくはこちらのコラムをどうぞ

中でも1964年に書いた「ピープル・ゲット・レディ」は、信仰心があれば列車に乗って安住の地に行けるという、ゴスペル・ソングではよくあるストーリーで、公民権運動について直接書かれたわけではなかったが、希望に満ちたこの歌は公民権運動におけるアンセムとなった。



そして1965年、この歌を聴いたボブ・マーリィは歌詞とメロディを引用しながら、そこに自分の言葉を付け足し、独立後の渾沌としたジャマイカにおけるメッセージ・ソング「ワン・ラヴ」へと生まれ変わらせる。
クレジットはボブ・マーリィとなっており、それは明らかな著作権侵害だったが、この歌にそのような邪な心は全く感じられない。この頃のボブはまだ著作権というものを理解していなかったのだろう。
そこにあるのは、素晴らしいと思った歌とともに自分たちのメッセージを多くの人たちに届けたいという、純粋な思いだけだ。



1977年に再びレコーディングし、アルバム『エクソダス』に収録された際には、歌詞に手が加えられるとともにオリジナルにも配慮し、「ワン・ラヴ/ピープル・ゲット・レディ」というタイトルになった。クレジットもボブ・マーリィ&カーティス・メイフィールドに変更されている。



ジャマイカでカーティス・メイフィールドとインプレッションズの影響を受けたのはウェイラーズだけではなかった。
ロック・ステディが流行した1960年代半ばには、インプレッションズを真似て数多くの3人組によるコーラス・グループが生まれ、1966年にインプレッションズがジャマイカを訪れたときには、ビートルズさながらの熱烈な歓待を受けたという。

インプレッションズのハーモニーはジャマイカ人の心を掴んだ。
そしてカーティスの希望に満ちたメッセージは、ボブをはじめとして多くのミュージシャンに歌い継がれ、ジャマイカに光を照らすのだった。


参考文献:
『ボブ・マーリィ キャッチ・ア・ファイア』ティモシー・ホワイト著/青木誠訳(音楽之友社)
『ボブ・マーリィ・ファイル』中村直也監修(シンコー・ミュージック)

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