TAP the CHANGE

スタジオのソファで寝ているだけのミック・ジョーンズがリバティーンズにもたらしたもの

2017.07.18

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ガレージロック・リバイバルという言葉が、世界中に広まりつつあった2002年。
その火付け役となったストロークスが所属していたラフ・トレード・レコードから、新たにリバティーンズがデビューした。

バンドの主軸を担うのは、カール・バラーとピート・ドハーティ。
2人ともボーカル兼ギターでソングライティングも手がけるという、今にもエゴとエゴが衝突しそうな危険性を感じさせたが、2人の放つ存在感は数あるバンドの中でも別格だった。



10月にリリースされた1stアルバム『リバティーンズ宣言』は荒削りで生々しく、ストロークスの洗練されたサウンドとは全く違っていた。

このアルバムでプロデュースを務めたのは、クラッシュのギタリストだったミック・ジョーンズだ。
ミックはクラッシュを脱退したあと自身のバンド、ビッグ・オーディオ・ダイナマイトで活動していたが、90年代の後半には活動を休止してしまい、当時はほとんど表立った活動をしていなかった。

そんなミックをプロデューサーとして招いたのはラフ・トレードで、リバティーンズのメンバーは実際に会うまで、ミックはおろかクラッシュのことさえもほとんど知らなかった。

ミックについてパンクロックの伝説的な人物だと聞かされていたカールは、「お前らは全然パンクじゃねえ」と言いながら、唾を吐き捨てるようなのは勘弁だと思っていたという。

バンドメンバーがリハーサルをしていたスタジオに現れたミックは、キチッとした身なりで礼儀正しく挨拶をすると、特に口を出すこともなくソファに座ってバンドの演奏を聴きはじめた。
そのときの様子をカールはこのように振り返っている。

「そのうち立ち上がるとちょっと踊って、マリファナ吸うと『もう一度やってみてくれないかな』って言ったんだ。だから、俺たちも言われたとおりにしたんだけど、顔をあげると、ソファで丸くなって寝てた」


ミックも、最初の数週間は何もしていなかったことに同意している。

「連中は『あれはどういった類のプロデューサーなんだ?』と口にしてたよ。
俺は防音ガラス越しに、座りながらぼけっと聴いてるだけだったからな」


来る日も来る日も特に何を指示するわけでもなく、ソファーで演奏を聴いていただけのミックだったが、何も考えていないわけではなかった。
どうやって録音するのが、彼らの音楽にとって最善なのかを考えていたのだ。
演奏は決して上手いとはいえなかったが、各パートを別々のブースで録音して修正を重ねていけば、ミスをなくせるし音質も良くなる。コンピューターの導入によって飛躍的に技術が発展した時代においては、そうするのが一般的だった。
しかしそのやり方では、彼らの音楽を本当の意味で録音することはできない、とミックは判断した。

「ほとんどのグループはバラバラに録音しているし、そういった技術に力を宿らせるのがスタジオの規範だ。
だがそれは音楽そのものを救ってくれるわけじゃない。全ては感性次第だ」


ミックはようやっとレコーディングを開始させたが、リバティーンズがやることはリハーサルのときと何も変わらなかった。違いはテープが回っているかどうかだけだ。
同じ曲が何度も繰り返される中で、ミックは彼らの持ち味、魅力がもっとも出た瞬間を自身の感性で見極めていった。
それは決して簡単なことではない。演奏を続けるほどメンバーの体力や集中力は削られていくし、結局最初のテイクが一番よかったというのはよくある話だ。
しかしメンバーは自分たちの音楽とひたすら本気で向かい続け、最後にはミックの感性を納得させるだけの演奏をしてみせるのだった。

リバティーンズがそこまで本気になれたのは、ひとえにミックに対する信頼があったからだろう。
カールはすっかりクラッシュの大ファンになり、ミックのことも大好きになったという。

「本当に、こんな人がいるのかっていうくらいいい人だよ。みんなに愛されるタイプだ。人を萎縮させるような、威圧的なところがまったくないんだよ」


ピートもまた、ミックからは多大な影響を受けたと話している。

「仕事というより、もっと個人的な体験だった。俺を神話のような世界へいざなってくれたんだ。こんな人たちがいたなんてね。
クラッシュっていうのはある意味、魔法の言葉であり、人の胸に刻まれた特別な存在なんだ。
俺は安堵感すら覚えたよ。ようやく何かを学べる人と出会えたってね。本当の意味で俺たちと考えを分かち合ってくれる人に」


リバティーンズは、自分たちの音楽が進むべき方向性を、そしてレコーディングにおいて一番重要なことをミックから学んだのだった。

こうして完成したリバティーンズの1stアルバムだが、やはり演奏の未熟さや音の悪さを指摘する声は上がった。
しかしそれ以上に、血の通った彼らの音楽は多くのメディアで賞賛され、2003年度のNMEアワードではベストニューバンドに選出された。
それは、ミックのやり方が正しかったことが証明された瞬間でもあった。





The Libertines『Up the Bracket』
Rough Trade


引用元:
『リバティーンズ物語 ピート・ドハーティとカール・バラーの悪徳の栄え』ピート・ウェルシュ著/天野智美訳(ブルース・インターアクションズ)
Mick Jones·Interview(The A.V.Club)

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