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裸の声〜労働者の街の歌姫まちゅこけ

2015.03.01

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「はだかんぼ」/まちゅこけ


救われない 報われない 上を見上げても
人間の屑と罵られても恥晒の唄は続く
息を殺しうずくまる 何も見たかないさ
底の底へようこそ Welcome to my sweet ghetto

惨めさをごまかすためにゃ 歌って晒し者にでもなる
瘦せこけて 瘦せこけて 最後には消えるのかな
息が出来ねぇ 前が見えねぇ アバヨ Beautiful life
未練などねぇなんて 格好良くおさらば出来まへん

こぶしを握って掲げてみなよ あたしゃはだかんぼ
未練がましい 格好悪いのは誰のせいかしら

(まちゅこけ「はだかんぼ」より)

「まちゅこけ」というシンガーソングライターをご存知だろうか?
大阪にある西成という労働者の街での活動の拠点とし、剥き出しのハングリー精神で“愛と怒り”を唄う若き歌姫が『西成はだかんぼ』という新作ミニアルバムをリリースした。

「底の底から人間をさけべ!」

そんな強烈なメッセージと共に、彼女は自分が暮らしている西成にまつわる6篇の物語(楽曲)を作り上げた。
今回のTAP the NEWSはインタビュー形式で「彼女が作品に込めた想い」そして「彼女と西成の関係」を熱く語っていただきました。
百花繚乱、様々な歌姫達が伝説を創ってきたミュージックシーンに、また一つ新たな才能が花開こうとしている。
その誠実で飾らない彼女の“はだか”の歌声と言葉に、是非耳を傾けてみて欲しい。

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Q:まちゅこけさんと西成の関係について聞かせて下さい。

私の出身は兵庫県西宮なのですが、1995年の阪神大震災で被災して大阪にきました。
その数年後、音楽を通して西成にやってきました。
私は現在、西成で暮らし、そこをホームに全国を“珍道中”しながら歌を唄ってます。
「西成」という言葉を放つとき、大阪府民、また県外の方によって場所やニュアンスが違ったりするのですが、私の云う「西成」というのは西成区にある「釜ヶ崎」という地域のことを指します。
その場所は、簡単に言えば労働者の街です。
日雇い労働者が多く、ドヤ(簡易宿泊所)が立ち並んでいます。
そこでは、年間を通じて数々の行事がありまして、労働者支援団体による「夏祭り」や、年越しの「越冬闘争」、また学生達によるブラスバンドの「たそがれコンサート」や、プロレスラーによる「釜ヶ崎プロレス」などなどが開催されております。
そのすべての行事が、釜ヶ崎の中心部分にある「三角公園」という場所で行われます。


Q:その西成(釜ヶ崎)で、どういった経緯で音楽活動をスタートされたのですか?

私が初めて釜ヶ崎で歌ったのは、三角公園で毎年開催されている夏祭りでした。
その頃の私は、クソ生意気で、ギラギラしっぱなしで、さらに今より歌もギターも下手だったので、汁だけを武器に勝負してました。

(※彼女の云う「汁」とは、「情熱」や「魂の叫び」のようなものを指す)

「下手くそ、やめてしまえ!生意気!」
「おまえはここの人を差別しに来たんや!二度と来るな!」


そんな野次が飛び交う中、ほとんどまともに歌を聴いてはもらえませんでした。
浴びせられた卑猥な野次に対して、私はステージから客席に向かって逆ギレをしてしまいました。


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Q:その後、どんな風にして西成の人達と打ち解けていったのですか?

紆余曲折ありながらも…太々しく三角公園で行われる行事(イベント)に出演を重ねていくうちに、徐々に私の歌も聴いてもらえる様になりました。
歌い終わった後、真剣な表情で握手を求めて下さる方や、飲み物を買ってきて下さる方に釜ヶ崎の人の温かさを感じました。
特に印象深かったのは、初め私のことをボロカスに言っていた人が「あんたはここで歌わなあかん」と、右手を差し出してきたことがありました。
その人と握手を交わした時…やめずにここで歌ってきてよかったと思えました。


12 Photo by oi.

Q:まちゅこけさんにとって西成で歌うことは?

私からすれば、この場所で歌うことは有名無名関係なく、上手い下手だけでもなく、自分を偽らず、はだか一貫で向き合い、喧嘩して、孤独と向き合う、といった対決の場所でもあります。


「釜ヶ崎ソニック2014 LIVEダイジェスト」/まちゅこけ



Q:西成の音楽シーンについて聴かせていただけませんか?

私は現在その三角公園で、西成出身の彫師・アートディレクターの呼鳴手(ヨナルテ)氏と共に「釜ヶ崎SONIC」という音楽イベントを毎年10月に開催しております。
釜ヶは、2000年頃から徐々に音楽が盛んになってきました。
三角公園から数10メートル先に「難波屋」という立ち飲み屋があるのですが、その店の奥がライブスペースになっており、入場料は取らない“投げ銭”制で、ほぼ毎日ライブが行われています。
また、西成ジャズというジャズライブも盛んに行われています。
「萩之茶屋オールドグラフィティ」というライブハウスも盛り上がっております。
そしてヒップホップアーティストSHINGO☆西成さんの活躍はすでに全国区で、西成での盛り上りは圧巻です。
今では有名無名問わず全国からアーティストが集まるようになりました。
また、釜ヶ崎内でのお祭りやイベントにも西成外や県外からも沢山人が集まるようになりました。
音楽やアートは盛り上がっているのですが、それでもこの場所は“労働者の街”ということに変わりはありません。
かつては暴動が起こったこともあります。
労働者の高齢化、そして路上生活者も多く、様々な問題を抱えている街でもあります。


008 Photo by oi.

Q:新作『西成はだかんぼ』を手に取るリスナーの方々にメッセージをお願いします。

今作は、特に我が街「西成」にテーマに絞ったものです。
とは言っても、これまでに発表してきた作品も西成を唄った曲が多いです。
私は、いつもそれぞれの楽曲に「愛」「願い」「祈り」「感謝」、そして「怒り」の気持ちを込めています。
また今回は、この西成で出会った「友人の死」「裏切り」「失踪」などに立ち会ったことも、創作のきっかけとなりました。

元々、というか今でも、私まちゅこけは西成を背負った歌手ではありません。
この街に意識して根差したつもりもありません。
西成の人達は、自分より年配の方々ばかりで、自分よりもケタ違いの壮絶な人生経験をしてきた人が沢山います。
その人たちに向けて私が歌えることは、実はそうそう多くありません。
でも私は“歌うこと”が大好きなので、普段の生活や実体験を曲にしながら“声”を伝えてきました。
そして、気がつけばこの街で歌を唄って十数年が経ちました。
釜ヶ崎ではじめて歌った日のハングリーな気持ちは、今でも「忘れたらあかん!」と思うのです。

最後に…このアルバムを制作するにあたって、西成との縁が深く、まさに“今”の西成を沸かしているアーティスト達(ダンシング義隆、岳陽 from.アカリトバリ、西成の神様、露天商心詩)がゲスト参加してくれたことにも心から感謝しています。
彼らの素晴らしいパフォーマンスも聴けるので、是非この『西成はだかんぼ』を手にして欲しいです。
そして、各地のLIVE会場で皆さんとお会いできるのを心から楽しみにしてます!


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その手を汚して眺めてみたら あたしゃはだかんぼ
針の穴みたいな隙間を抜けて こんにちわ

身ぐるみはがれて闇をさすらう あたしゃはだかんぼ
貴方も 貴女も おのりゃも わりゃもEvery Body はだかんぼ

こぶしを握って掲げてくれよ
Every Body はだかんぼ
底の底から人間を叫べ
Every Body はだかんぼ

(まちゅこけ「はだかんぼ」より)



「声よ伝われ」/まちゅこけ(LIVE@高円寺Reef)


「男が泣いている」/まちゅこけ(LIVE@高円寺Reef)


【まちゅこけプロフィール】
199X年から大阪を拠点に日本全国で「西成から世界に!」と「チャーム!」
をスローガンにギターにドレスで元気に休まず活動する。
ハードコアパンクからメタル、ジャズ、フォーク、ブルース、などジャンルを問わず、場所も問わない。
また大阪西成の釜ヶ崎で、野外フェス「釜ヶ崎SONIC」を主催する。
これまで1stアルバム『世界をチャーム』(2008)、2nd『愛を告げぬは』(2011)、新作3rd『西成はだかんぼ』(2015)をリリース。

【まちゅこけ オフィシャルサイト】
http://sound.jp/machewqo/


まちゅこけ『西成はだかんぼ』

まちゅこけ『西成はだかんぼ』

(2015/ KURONEKO RECORDS)


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