「本物の音楽」が持つ“繋がり”や“物語”を毎日コラム配信

TAP the POP

TAP the NEWS

浅川マキが愛した名曲〜ビリー・ホリデイの“奇妙な果実”を聴きながら

2015.11.01

Pocket
LINEで送る

e3839ee382adefbc951
1942年1月27日、浅川マキは石川県石川郡美川町という漁師町で生まれる。
家が五軒しかないという集落で、妹と共に過ごした幼い頃に「美空ひばりを聴いて育った」という。
高校を卒業した彼女は町役場に就職したが…ほどなくして仕事を辞め、夜行列車に乗って東京に向かった。
上京以来、敬愛してやまなかったビリー・ホリデイについて、彼女はあるインタビューでこんなことを語っている。

私はあるときからビリー・ホリデイの歌の中に“救いのない何か”が見える気がしている。
私がこれまでに聴いた歌手の中には、心地良いものや、いい声や、慰安性の高いものはいっぱいあったが、それらの歌はすぐに通り過ぎて行ってしまう。
だけどビリー・ホリデイの歌は、何か厭世(えんせい)とも思えるのかもしれない。


1967年、当時25才だった浅川マキは「東京挽歌」という歌でレコードデビューする。
しかしその楽曲は、彼女が歌いたかった世界とはあまりにかけ離れていた。
その後、寺山修司によってその才能・存在感を見出され、1969年にシングル「夜が明けたら/かもめ」で再デビューを果たす。
27歳、夏の出来事だった。
学生運動、70年安保闘争という時代の中、それは“アングラの女王”と呼ばれた彼女にとって一筋のスポットライトがあたり始めた時期でもあった。


浅川マキは、ビリー・ホリデイが歌う「Strange Fruit(奇妙な果実)」をこよなく愛していたという。
この歌は1938年に、ニューヨーク市マンハッタンにあったレコード店のオーナー、ミルト・ゲイブラーによって設立された独立系のレコードレーベル“コモドアレコード”から世に送り出された名曲である。
人種問題にまつわる歌詞の内容で大手のレコード会社が尻込みしたことでも有名である。

歌い方にハッタリとかね…そういうのが全然ないのよ。
彼女の歌っていうのは、あんまり押さえつけてくるっていう歌い方じゃないけど、聴けば聴くほど麻薬みたいにこっちがのめり込んじゃうわけよね。
麻薬で死んでしまったという彼女と、そういう唱法とがね…何かすごくいつまでも人の心をとらえて離さないみたいな。


浅川マキはステージでこの曲を歌う時に、こう呟いて唄いだすのだった。
「白人のリンチにあって、黒人が木に吊るされている。なんと奇妙な果実ではないか…」
つい先日、日本政府はTPP協定交渉で大筋合意した関税分野の全容を発表した。
コメ、自動車、医療…不安と期待で揺れる我が国。
果実や野菜などについては、生産者の間で「寝耳に水だ」として不満と強い憤りの声があるという。
どこかで“奇妙な果実”が吊るされる…そんなことが起こる社会なんて誰一人として望んではいないはずだ。


南部の木々に奇妙な果実がある
葉は血に濡れ赤い血が根に滴っている

飛び出した眼 歪んだ口
木蓮の甘く爽やかな香り
そこに突然漂う焼けた肉の臭い
此処にも一つ カラスの餌となる果実がある

Pocket
LINEで送る

あなたにおすすめ

関連するコラム

[TAP the NEWS]の最新コラム

SNSでも配信中

Pagetop ↑

トップページへ