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テネシーワルツ物語・後編〜江利チエミが愛した歌、彼女を愛した高倉健

2024.10.04

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戦後間もない1947年頃、日本にはアメリカの文化が怒濤のように流れ込んできた。当時の若者たちは、アメリカの映画に熱中し、アメリカのポップ音楽に耳を傾けていた。ラジオや街のそこかしこから聴こえてくる耳新しい歌の中でも、「Tennessee Waltz」は、特に日本人の心を惹きつけたという。

1949年、家計を支えるため、12歳の頃から進駐軍キャンプ回りをしながら“歌で稼いでいた”江利チエミが、一人の進駐軍兵士からプレゼントされたレコードが、「Tennessee Waltz」だった。

歌手になることを志していた彼女は、この曲でデビューを果たすことを心に決め、レコード会社のオーディションを受け始めた。ところが現実は厳しく…どの会社からも不合格の通知しか届かない日々が続く。

背水の陣で臨んだキングレコードのオーディションにようやく合格したのが、14歳の時のことだった。1950年にパティ・ペイジが録音してから2年も経たないうちに、江利チエミはレコード会社の大人たちをうなずかせて、現実に録音を果たしたのだ。

1951年11月にレコーディングされた江利チエミの「Tennessee waltz」は、年をまたいで翌1952年の1月23日に発売された。当時、キングレコードとしては“14歳の天才少女”として売り込みたかったらしいが、1937年1月11日生まれの彼女は(発売日には)15歳になっていたために、「嘘をつくのは嫌だ!」と渋った彼女に対して、レコード会社も折れ…そのキャッチコピーは幻になったという。

これは、彼女の誠実で一徹な性格がよく表されたエピソードとして、後々まで語り継がれることとなる。

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「Tennessee Waltz」の歌詞といえば、男性歌手が歌えば主人公は男性に、女性歌手が歌えば主人公は女性になる歌としても有名である。だが、なぜか江利チエミが歌う日本語訳詞では、主人公が男性になっている。この日本語訳が生まれたのには、どんな経緯があったのだろう?

当時、彼女のキング入社をゴリ押しした初代・音羽たかし(訳詩のペンンネームで、歴代・江利チエミの担当デレクターが襲名する名)こと和田寿三が「チャンポンで行こう!」というアイデアで、英語と日本語の混ぜ合わせた歌詞でのレコーディングとなる。

そんな中、最初に出来た歌詞が彼女にはどうしても納得がいかなかった。オーディションに受かったばかりの14歳の少女は、涙ながらにディレクターにこう訴えた。「この歌詞じゃ歌えない!この歌詞ではワルツに乗らないの」

そんな幾つかのエピソードが詰まったデビュー曲「Tennessee Waltz」を唱って、15歳の少女は日本の歌謡界のスターダムへと駆け上がっていく…。

その後、雪村いずみ、美空ひばりといった、日本を代表する歌姫たちもこの曲を歌い継いでいった。

♪「Tennessee waltz」/江利チエミ


2014年の11月10日に亡くなった高倉健が、江利チエミの元夫であったことは周知のこと。1959年、彼女は当時新進の俳優だった高倉健と結婚し、幸せな日々を送っていた。

その3年後に、母が父と結婚前に生んでいた異父姉が姿をあらわし、彼女の運命は暗転する。自宅の火事、実兄の急死と不幸が相次ぎ、異父姉が負債していた数億円に及ぶ借金を背負うこととなり、夫の高倉健に迷惑をかけまいと1971年に離婚をする。

そして、借財の返済も終えた1982年2月13日、東京・高輪の自宅で、脳溢血で意識を失い、吐瀉物が気道に詰まっている状態で発見される。死因は窒息死だった。享年45。密葬が行われた2月16日は奇しくも、高倉健の誕生日であり、二人の結婚記念日だった。

それから17年の時が流れ…1999年に高倉健が主演した映画『鉄道員(ぽっぽや)』のテーマソングに「Tennessee Waltz」が使われたのは、こんなエピソードがあったそうだ。

ある日、『鉄道員(ぽっぽや)』の製作打ち合せの席で、キャストを含めた関係者が各々にテーマソングの候補をあげていた。当初、監督の降旗康男は、夫レス・ポールのギターで妻メアリー・フォードが歌う「Vaya Con Dios」という曲を考えていた。

幾つかの候補曲があがる中、製作スタッフから「他に何かありませんか?」と問われた高倉健は、おもむろに「Tennessee Waltz」と答えた。

彼は妻・江利チエミと別れた後、再婚をしなかった。彼女が亡くなってからも、ずっと墓参りを欠かさなかったという。高倉健の人柄に深く触れてきた監督は、彼の中に存在する江利チエミの大きさをあらためて知り、映画のテーマ曲を「Tennessee Waltz」に変更した。

そのことを告げられた高倉健は「そんな個人的なこと、まずいんじゃないですか…」と言ったきり、黙りこくったという…。

江利チエミ『決定版 江利チエミ』

江利チエミ『決定版 江利チエミ』

(2011/キングレコード)


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執筆者
【佐々木モトアキ プロフィール】
https://ameblo.jp/sasakimotoaki/entry-12648985123.html

【公演スケジュール】
https://ameblo.jp/sasakimotoaki/entry-12660299410.html

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