27歳でこの世を去ったジム・モリソン。彼の音楽キャリアにおいて、生前最後のオリジナルアルバムとなった『L.A. Woman』がリリースされたのは、1971年4月のことだった。
同作の表題曲は、ブルースを基調としながら独自のサウンドを追求してきたドアーズの楽曲の中でも特にスピード感溢れる一曲として知られている。
「この曲は僕にとって“真にドアーズ的な歌”と言える。どうやって出来たのかは憶えていないんだけど…とにかくこの曲は絶えず練り上げていたよ。やっているうちにジムが歌詞をつけていって、まだステージで生でやったわけでもないのに、歌は自然に成長していったんだ。バンドメンバー全員にとって労作と言えるだろうな」
ロビー・クリーガー(The Doors/ギタリスト)
1967年のデビュー以降、ドアーズは破竹の勢いでトップバンドとなり、革パンツでフェロモンを炸裂させるジムは、セックスシンボルとして注目を集めた。
そんな中、ジムは過度の飲酒癖とドラッグ漬けで様々な問題を起こす。1969年11月、マイアミ公演のステージ上でズボンを下げ自慰行為を見せたのはシャレにならず、ジムは史上初めてライブ本番中に逮捕されたミュージシャンとなる。
こうしたことから彼等は反社会的とレッテルを貼られ、コンサート会場が貸出しを渋るなど、次第に活動が困難になっていく。このスキャンダラスな行為によって起訴されたジムは、以後1年半近く裁判に時間を浪費することとなる。
この「L.A. Woman」は、そんな鬱屈した日々を晴らすような勢いとエネルギーに満ちた楽曲と言えるだろう。ローリング・ストーン誌はレコードガイドでこんなコメントと共に高い評価を示している。
このLPは、ドアーズをこれほど興味深いバンドに仕上げたすべての要素を取り混ぜて詳細に紹介したものと言える。
アルバムがリリースされて3ヶ月も経たないうちに悲劇は起こった…。1971年7月3日、ジムはパリの自宅アパートのバスタブで死体となって発見される。
第一発見者は、恋人のパメラ・カーソン。その年の春、ジムは詩作の環境を求めて、パメラと共にアメリカからパリに移住してきたばかりだった。故に“客死”ということで検死が行われずに埋葬されたことから、死因は“ヘロインの過剰摂取”と囁かれながらも未だ明らかにされていない。
三年後…ジムの後を追うようにしてパメラもオーバードーズでこの世を去った。彼女の死も、ジムと同じ27歳だった。
歌詞に登場する“mojo(モジョ)=mojo hand”とは如何なるものなのか? ブルースの歌詞の中でもこの「モジョ」や「モジョハンド」と言う言葉は頻繁に出てくる。辞書で調べても載っていない、いわゆる“ブルース専門用語”の代表的な単語なのだ。
諸説ある中、一般的にはブルースマンが身につけているお守りのようなものを指すらしい。それは“ドクター”と呼ばれるヴードゥー教の呪術師から買うお守りで、望みの異性を勝ち取ることができると信じられていたもの。伝説のブルースマン、マディ・ウォーターズは、モジョについてユーモアたっぷりに語っている。
「ドクターは大きな車を運転して立派な家を持っていたよ。だけど俺はその力をまるっきり信じているわけじゃない」
モジョの意味として、“物や人にもともと備わっている力”という一説もある。また、ニュアンスによっては“麻薬”や“精力”の比喩として、さらには転じて“パワー・生命力”といった神秘的なものとして表現されることもあるという。
「L.A. Woman」で後半部分で何度も繰り返されるこの言葉に、ジムはどんな想いを込めたのだろう?恋人パメラへの愛、性的な欲求、孤独、欲望、絶望、そして悲しみ。ブルースに心酔したジムは、最後にモジョの魔力によって葬られたのだろうか。

L.A.ウーマン/ザ・ドアーズ
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