『キッズ・アー・オールライト』(The Kids Are Alright/1979)
風車のように腕を回しながらギターを弾くピート・タウンゼント。
まるで津波のように汗を飛ばしながらドラムセットを叩きまくるキース・ムーン。
その横で驚異的なテクニックで黙々とプレイするジョン・エントウィッスル。
ソウルマンと聖歌隊の少年が同時に歌っているかのようなロジャー・ダルトリー。
愛に支配された偽善者、とんでもない狂人、ロマンティスト、踊れないタフ・ガイの4人──英国が生んだ偉大なるバンドThe Who。
1964年のデビューから数年間続いた「My Generation」を代表とするモッズバンド時代。
あるいは知的な文学性に貫かれた『Tommy』や『Quadrophenia』といったロック・オペラと映画作品。
モンタレー、ウッドストック、ワイト島、リーズなどで魅せてくれた史上最高の大音量ライヴバンドとしての圧倒的存在。
『Who’s Next』に象徴される実験性の高い新しい音楽の追求。
そして忘れられないユニオンジャックのファッションやステージでの楽器破壊のパフォーマンス。
これほどまでに様々な表情を持ちながら、ファンを楽しませてくれたバンドが他にいただろうか?
“動と“静”が絶妙なバランスで絡み合ったこの個性的なメンバーによるザ・フーとしての活動は、1978年9月7日に起きたキース・ムーンの悲劇(享年32)によって突然終えることになったが、彼らがロック史に刻んだ足跡が余りにも大きすぎるせいか、現在のあらゆるバンドのちょっとした音や歌詞、パフォーマンスや言動にどこか“フーらしさ”を感じてしまうほどだ。
『キッズ・アー・オールライト』(The Kids Are Alright)は、1979年に公開されたザ・フーの60〜70年代の姿を収めたドキュメンタリー。タイトルはもちろん1966年にシングルリリースされた至極のポップチューンから。プロジェクトを多数抱えていた彼らはもともとこの映画作りを進めていたが、キースの死で結果的に追悼フィルムとなった。ピート・タウンゼンドが言うように、それは「怒れるゴロツキ」から「ファンの担い手」へと成長したバンドの物語でもある。
歴史をただ年代順にまとめたものではなく、ライヴステージ、TV番組、プロモーションビデオ、レコーディングスタジオなどの映像が次々と流れていく。ユーモアに満ち溢れたインタビューやコメントも面白い。
なぜ楽器を壊すのか?と訊かれると、「他のバンドと違って、俺たちにはセックス・アピールなんてないからね」と答え、いつもハイなのはドラッグのせい?と訊かれると、「何もやらなくてもいつもブッ飛んでるよ」と淡々と話すピート・タウンゼンド。「ステージでは理性というものは失くしてるから、もし君が舞台に上がってきてステージを壊そうとしたら、僕は君を殺すかもしれない」
ロジャー・ダルトリーは「世界最低の大騒音バンド」と微笑み、キース・ムーンは「15年も一緒にやってるけど、いまだに仲間だと思われてない」と嘆く。ジョン・エントウィッスルは黙ったまま。中でもロック・オペラ誕生のきっかけは興味深い。
レコーディングが終わったと思ったら、まだあと10分ほど曲が不足していることに気づいた。プロデューサーは「10分の曲を作ってくれ」と焦った。俺は「できないよ。ポップソングは2分50秒と決まってる」と言った。すると奴は「じゃあ、2分50秒の曲を集めて10分の曲を作ろうぜ」(ピート・タウンゼンド)
その曲は「A Quick One, While He’s Away」となってアルバムで発表された。まだ誰もそんなことは思いもつかない1966年のことだ。『ロックンロール・サーカス』(ローリング・ストーンズが1968年に製作しながらお蔵入りになったショー)ではその素晴らしいパフォーマンスが収録され、『キッズ・アー・オールライト』のハイライトの一つにもなった。
また、この映画用にファン・クラブの会員だけを集めて1978年5月にスペシャル・ギグを行った模様も堪能できる。キース・ムーン最後のライヴとして貴重な映像だ。
ピート・タウンゼンドは自伝『フー・アイ・アム』でこんなことを語っている。
今考えてみれば、キースが死ぬんじゃないかと長い間心配しながら、そんなことが現実になるなんて信じていなかったのだと思う。キースはみんなに迷惑をかけ続けたけれど、いつだって楽しい奴だった。そんな男がいなくなってしまった。絶対に代わりのきかない何かが欠けてしまったような気持ちにもなった。残ったのはあいつの魂の気配。あのドラム。笑いながら火の出るようなプレイをしていたキース。
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予告編
エンディング・ロールで流れた「The Kids Are Alright」
DVD『キッズ・アー・オールライト』
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*公開時ポスター
*このコラムは2016年9月に公開されたものを更新しました。
評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから
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