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さらば青春の光〜“完璧な10代のライフスタイル”を追求したモッズ族

2017.05.22

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それは1973年の初め、暗く冷たい冬の夜。27歳だったピート・タウンゼンドが自宅のコテージに一人座りながら、記憶の旅に出たのが始まりだった。新しい音楽と物語の構想に明け暮れていたピートの心に、突如として1964年のブライトン・ビーチでの想い出が蘇ってきたのだ。自分はロックスターとしてではなく「ファンの担い手となるべき」と考えていたピートは、ノートに一人のモッズ少年を主役にした風景を綴っていく。

その新しい音楽と物語である『Quadrophenia』(四重人格)は1973年10月にリリースされ、大ヒットを記録。ブックレットには写真家イーサン・ラッセルによる40ページものモッズ族のフォト・ストーリー(下の写真)が収録され、ピートが心に描いた風景をヴィジュアルとして見事に再現していた。


それから6年後、パンクを機に音楽シーンが若返っていたイギリスには、ザ・ジャムやシークレット・アフェアーといった新世代のバンドが登場して、モッズ・リヴァイヴァルが起こっていた。ザ・フーの『Quadrophenia』(四重人格)を原作にした映画『さらば青春の光』が1979年に公開されると、すぐさまネオ・モッズたちのバイブルとなり、同年後半にはスペシャルズなどのツートーン・スカも登場。ヨーロッパだけでなく東京にもモッズシーンが出現するまでに至った。

モッズ(モダニスト)とは、テッズ(テディボーイ)に代わって1958年のロンドンで生まれた新しい若者風俗のこと。ティーンエイジャーの人口増加や消費力が注目される中、一部の洒落た若者たちがイタリアン・ルックに身を包み、モダンジャズを聴いたり、ヴェスパやランブレッタといったスクーターを走らせ、カフェバーやクラブに集まり始めたのだ。

62年にモッズがメディアを通じて紹介されると、より多くの若者たちに刺激と影響を与え、63〜64年頃には世界のポップカルチャーの中心になっていた“スウィンギング・ロンドン”の空気を吸い込みながら黄金期を迎える。マーク・ボランもデヴィッド・ボウイもロッド・スチュワートもスティーヴ・マリオットもみんなモッズだった。

三つボタンのサイドベンツの細身のスーツ、フレッドペリーのポロシャツ、アメリカ軍の放出品パーカ、デザートブーツなどに着眼するファッション性。R&Bやモータウンやスカなどを愛聴する音楽性。溜まり場のクラブやフェイス(顔役)やチケット(仲間)といった集団性。デコレーションされたスクーターや週末のビーチといった移動性。パープルハーツに代表されるドラッグ性。様々な表情を覗かせながら“完璧な10代のライフスタイル”を追求する。ザ・フーもそんなモッズたちに強く支持されたバンドの一つだった。

一方でモッズの過激性も次第に増していった。64年4月のクラクトン・ビーチでは敵対する革ジャン姿のロッカーズと大乱闘。翌月も夏もその種の事件が相次いで新聞沙汰になると、乱闘目的でモッズになる者さえ現れた。そして66年の夏、イギリスが経済危機に見舞われると、“スウィンギング・ロンドン”は陰り始め、年末には人気音楽番組『レディ・ステディ・ゴー』も打ち切られ、モッズは姿を消していく(スキンヘッズやヒッピーの台頭)。若者文化のうねりは既にアメリカのサンフランシスコに向かっていた。

1964年を舞台に一人の少年の葛藤する姿を描いた映画『さらば青春の光』(Quadrophenia/1979)は、良質な青春映画でもあり、60年代モッズシーンの風景映画でもある。

主人公ジミーは昼間はメールボーイの仕事をしながら、夜になるとスクーターに乗ってクラブやパーティーをハシゴする典型的なモッズ。クスリを調達する仲間もいるし、片想いの女の子もいる。みんなの話題は週末のブライトン・ビーチでの集まり。何かが起こる期待に胸躍らせてスーツを新調するジミーだったが、乱闘に巻き込まれて警察に拘束されてしまう。顔役のエース(演じるのはポリスのスティング)の手助けもあって地元に戻るが、仲間や恋にも親や仕事にもすべてに嫌気が差していた。ジミーはもう一度、海岸の町に出向くのだが……。

サントラ盤にはザ・フーの曲のほか、ジェームス・ブラウンやロネッツなどのモッズが愛したナンバーが収録されている。映画では、ジミーが幼馴染みのロッカーズが口ずさむジーン・ヴィンセントの「Be-Bop-A-Lula」を嫌い、キンクスの「You Really Got Me」を歌って対抗するシーンが印象的だ。

映画の予告編


モッズとロッカーズの乱闘シーン

『さらば青春の光』

『さらば青春の光』


*日本公開時チラシ
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*参考文献/『ピート・タウンゼンド自伝:フー・アイ・アム』(森田義信訳/河出書房新社)、『イギリス「族」物語』(ジョン・サベージ著/岡崎真理訳/毎日新聞社)

*このコラムは2015年8月26日に初回公開されました。

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評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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