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ダーティハリー〜映画史に残る決め台詞を生んだクリント・イーストウッドの代表作

2023.12.18

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『ダーティハリー』(Dirty Harry/1971)


スティーヴ・マックィーンやポール・ニューマンと並ぶ1970年代の映画スターと言えば、クリント・イーストウッドの名を挙げる人は多いだろう。90歳近くになった今も精力的に映画製作に携わり、監督として、プロデューサーとして、そして俳優としても現役を貫き続ける映画人。リビング・レジェンド。

1930年にサンフランシスコで生まれたイーストウッドは、高校卒業後に木材工場で働いていたが、転機が訪れたのは20歳の時。入隊した陸軍で知り合った映画助監督の勧めで俳優の夢が芽生える。除隊後は大学で演技を学び、54年頃から数本の映画に端役で出演するも鳴かず飛ばず。オーディションにも落ちまくる。29歳の時にTVシリーズ『ローハイド』でようやく陽の目を見た。

だが番組の人気もやがて低迷。そこでアメリカからイタリアへ渡り、セルジオ・レオーネ監督の『荒野の用心棒』(1964)『夕陽のガンマン』(1965)といったマカロニ・ウエスタンに主演。人気を得る。68年にハリウッドに戻ったのは37歳の時だった。長い苦難の末に掴んだ栄光。映画スター“クリント・イーストウッド”はこうして誕生した。

そんな彼の新境地となったのが『ダーティハリー』(Dirty Harry/1971)。その後の犯罪映画や刑事アクション映画に多大な影響を与え、現在につながる一つの大きな流れを作ったとも言われる。マックィーンの『ブリット』が切り拓いた新しい刑事像=一匹狼的なアウトローは、賞金稼ぎ役から転身したイーストウッドの『ダーティハリー』で完全到達した。

監督はドン・シーゲル。イーストウッドとは『マンハッタン無宿』(1968)、『真昼の死闘』(1970)、『白い肌の異常な夜』(1971) に続く4度目の顔合わせ。二人の信頼関係は厚く、撮影中にシーゲルが突然の高熱で倒れた時、イーストウッドは演出を買って出たという。二人にとってハリウッドでの最初の大ヒット作になった。

もともとはフランク・シナトラが主演を務める予定だったが、ポール・ニューマンに話が移る。断った彼は代わりにイーストウッドを推薦。そのため脚本も最終稿まで何度も書き直され、ジョン・ミリアスやテレンス・マリックも関わったとされている。ロケのほとんどはサンフランシスコで行われた。

映画が生んだキャラクター、ハリー・キャラハン刑事。汚い仕事ばかり任される彼を、人は「ダーティハリー」と呼ぶ。腐敗や怠慢が悪を助長する世の中。法律が尊重されるあまり、無差別殺人犯でさえ簡単に釈放されてしまう現状。これでは被害者が増えるだけだ。やり場のない怒り。遂に彼は権力に噛み付く。「なぜさっさとぶち殺さないんだ?」

法が力を失った時、ハリーは組織と規律に背を向けて独断で悪を裁く。独自のやり方で人知れず悪を始末する。クライマックスで彼の怒りに満ちた44マグナム弾が静かに一発放たれる。ハリーは正義でもヒーローでもない。現代に甦った“成熟した流れ者”なのだ。

映画では有名な決め台詞も生まれた。犯人を追い詰めたハリーは、倒れ込んだ相手にゆっくりと近づく。そして見下ろしながらトドメを刺す。時にはハンバーガーを頬張りながら。

考えてるな。弾が残ってるかどうか。撃ちまくって俺にも分からん。だがこれは特製の大型拳銃だ。脳ミソが吹っ飛ぶ。それでも賭けてみるつもりか。どうだクズ野郎。


『ダーティハリー』は、すべてが終わって警察バッジを投げ捨てる姿が印象的。この後シリーズ化されて(1973年/1976年/1983年/1988年)、その年の興行収入を更新しながら計5本(監督は全作異なる)が撮られた。ちなみに第4作では「Go ahead,make my day」の名台詞も登場。イーストウッドは微笑む。

いまだにハリーの続編は?と聞かれるが、彼はとっくに引退して、釣りでもしながら余生を過ごしてるよ。


予告編


『ダーティハリー』

『ダーティハリー』






*日本公開時チラシ

*参考・引用/『ダーティハリー』パンフレット、DVD特典映像
*このコラムは2018年6月に公開されたものを更新しました。

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

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