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ラ・ラ・ランド〜“誰も知らない音楽”だからこそミュージカル映画の新たな指標になった

2024.12.12

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『ラ・ラ・ランド』(LA LA LAND/2016)


アメリカでは2016年末、日本では2017年2月に公開された『ラ・ラ・ランド』(LA LA LAND/2016)は、ミュージカル映画としては珍しく幅広い世代の間で話題になった。映画界に一筋の希望を与え、何の興味もなかった(敬遠や偏見含む)人々にミュージカル自体に関心を持たせ、SNSで世界へ拡散させたという意味でも「ミュージカル映画の新たな指標」的作品と呼んでもいい。

とは言え、ゼロ年代以降、スクリーンの中でのミュージカルは別に死に絶えたわけではなかった。我々はそれなりに楽しみ、感動していたはずだ。例えば、『レ・ミゼラブル』のような誰もが知る人間ドラマから、『ムーラン・ルージュ』(2001)や『マンマ・ミーア!』(2008)のような恋愛もの。さらには『ドリームガールズ』(2007)や『ロック・オブ・エイジズ』(2012)といった音楽もの。

それでも『ラ・ラ・ランド』がこんなにも騒がれたのは、この作品が過去の名作のリメイクでもなく、既存のヒット曲で綴られるジュークボックス・ミュージカルでもなく、ブロードウェイの舞台での実績が一切ない“オリジナルの曲と歌”を使用して大ヒットしたからだ。「誰も知らない音楽でいきなりミュージカル映画を作る」のは、無謀な賭けすぎる。

この死にかけたクリエイティヴを復権させたのは、自ら脚本も手掛けたデイミアン・チャゼル監督。もともと大学の卒業制作で低予算のミュージカル映画を製作したほどの愛情の持ち主。『ラ・ラ・ランド』の企画は無名時代から温めていたものの、当然無視された。ところがデビュー作『セッション』が思わぬ成功を収めて実績ができた。今度は断られる理由はなかった。作曲は学生時代からの友人ジャスティン・ハーウィッツが担当。

重要なのは、夢を追う者たちの映画を作ることだった。大きな夢を持つ二人。その夢が彼らを突き動かし、一緒にし、そして別れさせもする。


この作品の本当の素晴らしさは、「夢への挑戦とそこから生まれるロマンス」を描き出した点に尽きる。そして「二人が幸せに結ばれました」ではないリアルな結末が、多くの人々の心を打って共感を呼んだ。

現在進行形の時代を描いているのに、観る人によってはどこか懐かしさを感じられるのもいい。往年のMGMミュージカル映画の洗練さが漂う場面もあれば、フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースのように伝説のカップルが蘇る場面もある。また、ジャック・ドゥミ『シェルブールの雨傘』『ロシュフォールの恋人たち』などのフレンチ・ミュージカルの切ないロマンス、デ・ニーロとライザ・ミネリ『ニューヨーク・ニューヨーク』の躍動感、ウディ・アレン『世界中がアイ・ラヴ・ユー』の夢心地……監督は新しい世代への道標を忘れない。

現在、シネマスコープの映画は通常2.40対1の横縦比で撮影されるが、僕たちは昔のように2.52対1で撮ったら面白いだろうと考えた。パナビジョンに話したら、レンズをそれに合わせて変えてくれた。おかげで作品に特別な雰囲気が加わったと思う。


カメラワーク、カラフルなファッション、ダンス、振り付けへの拘りにも注目だ。グリフィス天文台のプラネタリウム、LAの夜景を見渡す丘の上など印象的なシーンはたくさんあるが、中でもオープニングの有名な交通渋滞のシーンにはこんな意図があった。

車に乗っている時、何をしているか? 音楽をかけるか、夢を見ているか。一人一人が夢を持ち、自分の歌を生きている。みんなが自分だけの空想の世界にいて、自分だけのミュージカルの舞台にいる。だからこそあの瞬間は、セブとミアのような夢を追う二人が出逢うのに完璧なタイミングなんだ。僕たちはカーラジオを使って音楽のタペストリーを織り上げた。高速道路に入る全員が一人また一人と参加できるように。


夢追い人たちが集まる街、LA。ハリウッドの映画スタジオのコーヒーショップで働くミア(エマ・ストーン)は、女優を目指してオーディションを繰り返す日々。虚しさに取り憑かれたある夜、たまたま通り掛かったレストラン・バーから漏れるピアノの演奏に魅了される。弾いているのはセブ(ライアン・ゴズリング)。彼もまた誰も演奏に耳を傾けることのない日々から抜け出そうともがいている。いつか自分の店を持ち、死にかけたジャズの魅力を多くの人々に伝えること。

物語は、恋に落ちたミアとセブが互いの夢を支え合う関係となりながら、現実を直視しすぎるあまり、心が少しずつスレ違い始める様子を四季ごとに描写していく。ライアン・ゴズリングは三ヶ月掛けてピアノを習得し、甘い歌声を披露。ジョン・レジェンドもセブのバンド仲間役として登場している。

“LA LA LAND”の名の通り、この映画はLAという街や風景が主役でもある。ハリウッドエリアの愛称であり、夢の国、陶酔を意味する言葉。その真髄はクライマックスだろう。このシーンがあるからこそ、『ラ・ラ・ランド』は多くの人々に愛される作品になった。

人は人生において自分を変えてくれて、なりたい人物になれる道筋を作ってくれる人と出逢えるけれど、最終的にはその道を一人で歩まなければならない。人は残りの人生を決定づける人と結びつくことはできるが、その結びつきは残りの人生までは続かない。そのことはものすごく美しくて、切なくて、驚くべきことだと、僕は気づいた。この映画ではそんなことも描きたかった。


ディズニーアニメが永遠に母と子供たちのものなら、現在のミュージカル映画は古き良き時代を知らない“新しい大人たち”のものなのかもしれない。


日本版予告編


切なく感動的だったエンディング

『ラ・ラ・ランド』

『ラ・ラ・ランド』



サウンドトラック『ラ・ラ・ランド』

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*日本公開時チラシ

*参考/『ラ・ラ・ランド』パンフレット、オフィシャルサイト
*このコラムは2017年9月に公開されたものを更新しました。

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

【執筆者の紹介】
■中野充浩のプロフィール
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