『ブレードランナー2049』(Blade Runner 2049/2017)
『ブレードランナー2049』(Blade Runner 2049/2017)が2017年10月27日に劇場公開された。何せあれだけ時間を掛けて伝説と化した前作『ブレードランナー』(1983年)の続編だ。長年の熱狂的なファンも多数いるのでいろんな意見も耳にする。
中には「前作の良さだったゆったりとしたテンポに欠けている」「フィルム・ノワール臭が足りない」「なぜヴァンゲリスの音楽が使われていないのか」「ハリソン・フォードの出番が遅すぎ」「女性の登場人物が多すぎ」といった厳しいものも。
だが、初めて接する人にはそれでもこの作品が「そのへんのただのSF映画とはちょっと違う」ことくらいは分かってもらえるだろう。マイナス部分を差し引いても「偉大なる前作の続編」というプレッシャーと向き合いながら「よくぞこれだけ見応えのあるものを作ってくれた」というのが、お金を払って観てきた正直な感想だ。映画としては長過ぎる2時間43分は、あっという間だった。
ここだけの話。まだ観てない人は、余計な周辺情報を入れないで映画を観ることをオススメしたい。間違っても無料試写会に招かれた、映画とは何の関係もない著名人のPRコメントなどには惑わされないようにしてほしい。
知っておくべきことは、2019年を舞台とした前作の視聴と、今作の始まりまでに起きた30年の出来事のみ。これで映画に対する理解を深め、よりスクリーンを楽しむことができる。大事なのは観終わって「何を感じるか」だ。
監督はドゥニ・ヴィルヌーブ。リドリー・スコットが監督した前作へ敬意を払いながらも(リドリーは製作総指揮)、新しいクリエイティヴを生み出そうとした姿勢が素晴らしい。「リドリーが見た夢を引き継ぎ、この映画を撮った」とドゥニ自身が言うように、作品に論理的に取り組んだ大きな形跡はなく、ただひたすら自ら夢を見続けた過程や結果=夢の跡、夢の残像が数多く映し出されている。
例えば、CGを駆使しまくると思いきや、最小限に留めることを選択。主にハンガリーの地で組んだセットやミニチュアを多用してリアリティを追求。前作以上に厳しく孤独な世界観を展開する。
特に巨大なビルの谷間に“存在”するホログラフィー広告の美しい恋人や踊りだすバレリーナが印象的。これはアクション系SFエンターテインメントの類ではなく、静かに“人間のあり方”を描こうとする物語である。この点が貫かれてこそ、ブレードランナーなのだ。
2019年から2049年へと移っても、決して明るい未来像にはなっていない。さらに悪夢的な要素が強まっている。一方でいい報告もある。つまり、そんな状態になっても私たちが生きているということ。そこで生活している。今の私に言えることはそれだけなんだ。ただもっと前向きな夢想家が、今こそ必要とされている気がする。
(2019年から2049年までに起こった出来事)
*映画に関連した3つのショートムービーでその様子を観ることができる。
2019 ブレードランナーのデッカード(ハリソン・フォード)は、恋に落ちたレプリカントの美女レイチェル(ショーン・ヤング)を連れて逃亡(前作のエンディング)。
2020 創設者を失った(前作で殺害)タイレル社が、今度は寿命制限なしのネクサス8型レプリカントの開発を急ぐ。
2022 核弾頭がLA上空で爆破して大停電が起こる。これによりすべてのインフラがダウン。電子データのほとんども損傷して過去の記録が閲覧不可能となる。レプリカントのテロ行為と非難され、製造禁止が発令。(詳しくは映像『ブレードランナー・ブラックアウト 2022』)
2025 天才科学者ウォレス(ジャレッド・レト)が遺伝子組み換え食物を開発し、世界的な食糧危機を終わらせる。
2028 ウォレスが倒産したタイレル社の負債を買い取る。より従属的で制御可能なレプリカントを開発するため。
2036 レプリカント禁止法が廃止。ウォレスが最新のネクサス9型を発表。(詳しくは映像『2036:ネクサス・ドーン』)
2040 LAPD(ロサンゼルス警察)はブレードランナーの組織を強化。違法となったネクサス8型の後始末のため。
2048 ネクサス8型のレプリカント、サッパー・モートン(デイヴ・バウティスタ)は人知れずタンパク源となる線形動物を養殖。しかし、出向いたバーでトラブルに巻き込まれてブレードランナーの捜査対象になってしまう。(詳しくは映像『2048:ノーウェア・トゥ・ラン』)
そして、2049年のLA。
相変わらず酸性雨が降り注ぎ、気候変動によって海抜は劇的に上昇。以前にも増して貧困と病気が蔓延している。地球外惑星=オフ・ワールドへ移住できるのは富裕層だけで、ここには貧困層が取り残されたままなのだ。自動販売機で売られているウォレス社の遺伝子組み換え食品で生きながらえている。
K(ライアン・ゴズリング)は、LAPDに所属するブレードランナーであると同時にレプリカントのネクサス9型。その日、郊外の農場で旧型レプリカントのサッパーを探し出して射殺した彼は報告後に帰宅。ホログラフィーの恋人ジョイ(アナ・デ・アルマス)だけが夜の話し相手という孤独な生活を送っている。
上司のジョシ(ロビン・ライト)から急遽呼び出されたKは、サッパーの農場にあった朽ち果てた木の下に埋められた箱から、30年前のレプリカントの骨が発見されたことを知る。Kは骨のルーツを探り、危険分子を抹殺することを命じられる。
最初に出向いた先はウォレス社。対象となる旧型レプリカントのデータを調べるためだ。応対したのはネクサス9型のラヴ(シルヴィア・フークス)。ウォレスから全権を委任れている有能な彼女は、機密アーカイブにアクセスして大停電で損なわれたデータを復元。再生されたのは姿を消した元ブレードランナーのデッカードとレイチェル、二人がやり取りする映像と音声だった。
サッパーの農場をもう一度調べに戻るKだが、問題の枯れ木に自分の誕生日と同じ数字が彫られていることに気づく。そしてトラッシュ・メサと呼ばれる廃棄物処理場の孤児院で見つけた自分の幼い頃の決定的な記憶。これは単なる偶然だろうか。「もしかして俺は……」。Kの捜索は次第に自らのアイデンティティを探る旅へと向かっていく。
一方で骨に隠された真実を知られたくないウォレスも黙っていない。果たしてデッカードはどこにいるのか。ラストに訪れる衝撃の事実とは? 雪に打たれるKの表情に心が震えた。
音楽ネタ的には、エルヴィスやシナトラのホログラフィーやヴァンゲリスの「ティアーズ・イン・ザ・レイン」が使用されていることに注目。また、ウォレス役には当初デヴィッド・ボウイが候補に挙がっていたという(残念ながら死去)。映画は更なる続編を予感させる結末だ。
予告編
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*日本公開時チラシ
*参考・引用/『ブレードランナー2049』パンフレット
*このコラムは2017年11月に公開されたものを更新しました。
評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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