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『MTVアンプラグド』の原型になったピート・タウンゼントのソロ・パフォーマンス

2024.09.01

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1989年に始まったテレビ番組、『MTVアンプラグド』。電気を使った楽器や機材は一切禁止され、ミュージシャンは生の歌とアコースティックの楽器のみでステージに挑まなければならない。

一切のごまかしが利かない状況の中で、多くのミュージシャンが素晴らしいパフォーマンスを披露してきたが、中でもエリック・クラプトンやニルヴァーナの演奏は高く評価され、レコード化されて大ヒットしている。

そんな伝説的な番組のモデルとなったのは、ピート・タウンゼントが1979年に英国のBBCで放映された『シークレット・ポリスマンズ・ボール』に出演して、アコースティック楽器で披露したパフォーマンスだった。

『シークレット・ポリスマンズ・ボール』は、国際人権NGOのアムネスティとイギリスの人気コメディ集団のモンティ・パイソンによる、チャリティ・イベントである。

ことの発端は1976年。アムネスティが、会員の中にモンティ・パイソンのメンバーであるジョン・クリーズがいることに気づいたことから始まった。

アムネスティからキャンペーン活動について相談を受けたクリーズは、チャリティのコメディ・ショウをやろうと提案し、その年の4月には第1回が、そして翌年には第2回が開催された。その模様は英BBCテレビで放送されただけでなく、レコードとしてリリースされて大ヒットしした。


イベントの成功によって、英国内では認知度の上がったアムネスティだが、世界的に見ればまだまだ多くの人たちに知ってもらう必要があった。

そこでショウのプロデュースをしていたマーティン・ルイスが、より多くの人たちを集めるためにと声をかけたのが、ザ・フーのピート・タウンゼントだ。

この頃、ザ・フーは1つの転換期を迎えていた。というのも、前年の1978年にピートと並ぶバンドの核、そして華だったドラムのキース・ムーンが亡くなっていたからだ。

新たに元フェイセズのケニー・ジョーンズを加えた新生ザ・フーは、5月には最初のライヴを行っていたが、それと並行してピートはソロ活動のことも考えていた。ルイスから声がかかったのは、そんな折のことだった。

「友人のマーティン・ルイスが僕を招いてくれたんだ。出し物に花を添えてくれとね。コメディを中断させればいいと」


ルイスが提案したのは、コメディ・ショウの合間にソロで、しかもアコースティック・ギターのみで歌うというものだった。それはピートがかつて経験したことのない試みだった。

『シークレット・ポリスマンズ・ボール』は1979年の6月から7月にかけ、ロンドンで6回に渡って公演された。全体の流れはまずコメディから始まり、合間にミュージシャンが登場して1曲演奏すると、再びコメディが始まるといった感じだ。ミュージシャンとしてはピートの他に、クラシック・ギター奏者のジョン・ウィリアムズなどが出演していた。

1回の公演でピートが登場するのは3回、曲目は「ピンボールの魔術師」と「ドゥローンド」、そして最後に「無法の世界」だ。

世界一騒がしいバンドとまでいわれたザ・フーで、派手なパフォーマンスをしてきたピートが弾き語りをする姿は、見るものに新鮮な印象を与えた。そして力強く巧みに掻き鳴らされるアコースティック・ギターと、ときおり繊細さを感じさせる歌声だけで、ピートは会場を魅了してみせるのだった。


のちに多くのミュージシャンがアムネスティのイベントに出演するようになるのだが、アート・フォー・アムネスティの創設者であるビル・シプシーによれば、ルイスは「ミュージシャンをアムネスティに巻き込んだ先駆者だった」という。

2年後の1981年に開催された『シークレット・ポリスマンズ・アザー・ボール』で、ルイスはエリック・クラプトンやジェフ・ベック、スティングなど、さらに多くのミュージシャンに声をかけた。

スティングは参加した経緯について、このように語っている。

「『シークレット・ポリスマンズ・ボール』のことは知っていたよ‥‥モンティ・パイソンが出ていたし、ピート・タウンゼントが「無法の世界」を歌っていたからね。素晴らしいショウだと感じたよ。そして後に最初のショウをオーガナイズしたマーティン・ルイスから連絡をもらったんだ。「出てくれないか?」って。僕は最初のショウがとても気に入っていたから、こう答えたよ『もちろん、喜んで引き受けるよ』」


その後アムネスティは、U2やピーター・ガブリエルなどさらに多くのミュージシャンを巻き込んだ、「ザ・ヒューマン・ライツ・コンサート」なる大規模なツアーをスタートさせるのだが、アムネスティとミュージシャンを結びつけたという意味で、ピート・タウンゼントが出演した『シークレット・ポリスマンズ・ボール』は、ひとつの原点となったのである。


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