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カート・コバーンが誇りにしたというMTVアンプラグドでのパフォーマンス

2015.06.09

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『MTVアンプラグド』は様々なミュージシャンがプラグを使用せず、つまりはアコースティックで演奏を披露する番組で、1992年にエリック・クラプトンが出演した際にそのパフォーマンスが話題となったことによって、MTVの看板番組となった。(詳しくはこちらのコラムで

そんな人気番組が1992年の秋にオファーを送ったのが、若者たちから絶大な支持を集め、MTVビデオミュージックアワーズを受賞した経歴を持つ3人組のバンド、ニルヴァーナだった。
ドラムのデイヴ・グロールは当時の同番組に対する印象についてこう話している。

「アンプラグドは観たことあったけど、大半の演奏は好きじゃなかったな。
だって、あいつらマジソン・スクエア・ガーデンにいるかのような振る舞いで自分たちのヒット曲をやってるんだぜ。
違うのはアコースティックギターってことだけさ」


ニルヴァーナは慎重に話し合った末に出演することを決めたが、それは同時に『MTVアンプラグド』に相応しいステージとはどのようなものなのか、それを模索する日々の始まりだった。

彼らはセットリストを組むにあたり、自分たちの曲のほかにデヴィッド・ボウイの「世界を売った男(The Man Who Sold the World)」やブルースの巨人、レッド・ベリーが残した「ホエア・ディド・ユー・スリープ・ラスト・ナイト?(Where Did You Sleep Last Night)」など、カバー曲を何曲か取り上げた。
そしてその中に、彼らの大ヒット曲である「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット(Smells Like Teen Spirit)」は入らなかった。
この曲を演奏することにも、取り上げられることにも辟易していた彼らにしてみれば、外すのはごく自然の成り行きだった。

カート・コバーンはゲストに、ミート・パペッツを呼びたいと提案した。
ミート・パペッツは1980年から活動している3人組のバンドで、ニルヴァーナに音楽のレクチャーをしたり、ジョイント・ツアーをしたりしている間柄だった。
カートもファンの1人であり、セットリストには彼らの曲も入っていた。

バンドのこうした提案に対して、番組制作のスタッフたちは了承してくれたものの、MTVの役員はいい顔をしなかった。
彼らが求めていたのは話題のミュージシャンが大物ゲストと一緒に、大ヒット曲を披露するというステージだったからだ。それが確実に視聴率をとる常套手段だった。
そういった商業主義的な方向に背を向けて、自分たちの音楽と真摯に向き合うニルヴァーナに対し、役員たちは不満を募らせるばかりだった。

本番を1週間後に控えたある日、プロデューサーのアレックス・コレッティがカートのところへ、ステージのイメージを確認しにいくと、カートは「ロウソクとユリの花を用意してほしい」と要求した。
アレックスが「葬式の時みたいにかい?」と尋ねるとカートは「ああ、まさにそんな感じだ」と答えたという。
それまでの『MTVアンプラグド』とは一線を画した、特別なステージが準備されていった。

収録は11月18日、ニューヨークのソニー・ミュージック・スタジオで行われた。
カートの要望通りにロウソクやユリの花が飾り付けられた舞台で、普段の荒々しいサウンドと叫ぶようなヴォーカルを封印し、アコースティックなサウンドとカートの歌声によってメロディーや言葉が会場に響き渡った。
その純潔性に満ちた音楽に涙した観客もいたという。


このときの模様は12月16日に放送され、商業主義に屈することなく自分たちの音楽を貫きながら、それまでのニルヴァーナとは違う新たな一面を見せたことには大きな反響が寄せられた。

後年、マネージャーのダニー・ゴールドバーグは、カートが『MTVアンプラグド』でのステージにとても満足していたことを証言している。

「カートが収録のあとで電話をかけてきたんだ。
彼は『とても誇りに思っている。今までで最高の出来で、きっとバンドが広いオーディエンスにアピールするチャンスになる』と言ってたよ」


ニルヴァーナはその後、カートが翌1994年4月に自らの生涯にピリオドを打ったことによって活動停止となった。だが、同年11月1日、MTVでのライブを収めた『アンプラグド・イン・ニューヨーク』がリリースされると、カートの死後のニルヴァーナに初の1位をもたらした。

Nirvana『Unplugged in New York』
Geffen Records

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