1994年。峯田和伸は、自転車で片道30分のところにある共学の高校に通う、見た目は普通の高校二年生だった。
だが、彼の部屋の壁には、音楽雑誌「ミュージック・ライフ」や「ロッキング・オン」などから切り取ったニルヴァーナのカート・コバーンの写真が、無造作にベタベタ貼ってあった。
そんな峯田が、自宅に届いた地元紙の山形新聞で「人気ロック歌手が死亡。自殺の可能性あり」という記事を目にしたのは4月のことだ。
“人気ロック歌手”とはカート・コバーンのことだった。4月8日の朝に遺体が発見され、亡くなったのは4月5日頃と報じられていた。峯田が受けたショックは当然のことながら大きかった。
あんなに毎日CDを聴いて、歌詞を自分なりの解釈で和訳してノートにまで書いて、あんなに憧れてた人が、いとも簡単にこの世から姿を消してしまった。
峯田は学校に行っても一回も教科書を開かずに、ニルヴァーナの『NEVERMIND』『IN UTERO』『INCESTICIDE』を、ずっとヘッドフォンで繰り返し聴いていた。
それからすぐに、一緒に暮らしていた祖母がまだ六十代の若さで亡くなった。夫婦で電気店を切り盛りしていた峯田の実家では、両親にかわって祖父母が子供たちの面倒を見てくれていた。
長い闘病生活だった。五年前から喉に穴を開けてそこからホースで酸素を送っていたから、おばあちゃんの声なんてしばらく聞いてなかった。家族全員が集まり、おばあちゃんが寝ているベッドを囲んだ。「ピッ ピッ ピッ」
心拍数を計る器械がいよいよ「0」になって、最後に音が「ピーーーーー」に変わった。その時。僕はその時、ずっと寝ていたおばあちゃんがにっこり笑って「ありがとう」と静かに声に出したのを、見た。お母さんも見たらしい。
憧れの人だったカートと、大好きだった祖母の死が続き、鬱屈した日々を送っていたその年の夏。
お盆の8月14日、家で衛生放送を見ていた峯田は、アメリカから生中継されていた「ウッドストック94」に出てきたバンドのヴォーカルに目を奪われる。カリフォルニア州バークレー出身のパンク・ロックバンド、グリーン・デイのビリー・ジョー・アームストロングである。
馬鹿みたいな顔して白目を剥き、髪の毛をブルーに染め、アメリカ人にしては異常に背の低い彼は、ひざの位置までギターを下げて思いっきりギターを掻き鳴らしてる。なのに曲は思いっきりポップ。あげくの果てに彼等は何十万人もいる目の前のお客さんに「FUCK YOU」を連発し、馬鹿にしてゲラゲラ笑ってる。ステージにどんどん泥を投げられ、それでも平気で演奏する3人。そんな地獄絵図の中、ボーカルはケツを出した。
メンバーも観客も警備員も泥だらけになって混乱する中で、まだ無名に近かったそのバンドのライヴはあっけなく終了した。そのとき峯田はすぐに自転車を走らせて、駅ビルのCD屋に駆け込んで、グリーン・デイのCDを2枚手に入れた。
これが僕とグリーン・デイとの出会いだ。今でも忘れない。彼等は僕の憂鬱を、あの時代のけだるさを一瞬にしてふっ飛ばしてくれた。
その頃、まさか自分がバンドをやることなど思っていなかった峯田だが、3年後にはGOING STEADY(ゴーイング・ステディ)でデビューし、やがて銀杏BOYZのヴォーカルとして活躍することになる。
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