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奇跡のロックオペラ〜60年代の終りにThe Whoが放った『Tommy』の誕生秘話

2022.08.17

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「Overture」/ザ・フー


ビートルズのフォロワーとしてデビューし、当時そこそこヒット曲を飛ばしていたザ・フーのピート・タウンゼントは、60年代の音楽シーンに嫌気がさしていた。

飽きられたらそれまで、まるでバブルガムのようにポイと捨てられる。多かれ少なかれ、60年代のポップミュージックとはそういうものだったのだろう。

「ポップミュージックに終わらない音楽を創りたい!」

そう考えた才能あふれる若きソングライターは、秘かに壮大な構想を練っていた。それは口がきけず、耳がきこえず、目もみえない少年が、空想の世界を楽しむという物語をつくることだった。

実はその頃、ピートはインドにいるグルー(導師)の教えに関心を抱いていたことろだった。

「私の存在は人に教えることではなく目覚めさせること」

1925年から1969年の1月に他界するまで40年以上も「沈黙」を守りながら精神活動を続けていたミハー・ババ。ババの教えの中に、次のようなものがある。

すべてのものは創造(Creation)された後、進化(Evolution)する
やがて、それは生まれ変わり(Reincarnation)、退化(Involution)するが
そこでやっと悟り(Realization)を得る


ピートが生み出した奇跡のロックオペラ『Tommy』のストーリーには、ババの教えが色濃く反映されていたのだ。

【創造→進化】三重苦の少年を創造したピートは、彼に不思議な力を与える。
【生まれ変わり→退化→悟り】その少年は、やがて病気が治ってから自らを救世主だと思うようになるが、独善がすぎて…ようやく大切なものに気づく。

かつてピートは作品に対して、こんな事を語ったという。

「ストーリーや設定を抽象的にしたことが、かえって万人受けしたのかもしれない」
「つまり年齢や経験が異なるリスナー達が、このテーマをどう解釈してもいいように柔軟性を持たせて創作したんだよ」


「I’m Free」/ザ・フー


このようにして誕生した奇跡のロックオペラ『Tommy』は、1969年5月23日にザ・フーのアルバムとして世に放たれた。70年代へのカウントダウンと共に、この作品の登場は当時の音楽シーンにとっても“古い時代の終結”と“新しい時代の始まり”を意味していた。

当時は、ベトナム反戦運動の高まり、物質文明への批判、よりスピリチュアルなものを求めるピッピームーブメントの台頭などがあり、『Tommy』のメッセージは“時代の空気”と見事にマッチしたのだった。

また、このアルバムを引っさげて決行したツアーは大好評となり、アムステルダムではオランダの皇族がチケットを買ってまで観に来たという。ドイツのケルンでは、当時の大統領・ハイネマンがザ・フーのメンバーを招いてもてなしたというエピソードも残っている。

ヨーロッパ各地のオペラ座で“Tommy公演”を行った彼らは、1970年6月7日、オペラ座の殿堂であるNYの『メトロポリタン・オペラハウス』の舞台に立った。オペラハウスの支配人は「ここで公演をするロックバンドはザ・フーが最初で最後だろう」とコメントを発表した。

まさに“ロックンロールとオペラを融合させた”この画期的なアルバムは、ザ・フーのキャリアにおいても重要な位置を占める作品となった。

楽曲のクオリティも相まって、作品(アルバム)は全英2位、全米4位と好セールスを記録し、ザ・フーはシングルヒットを量産する“ヒットソングバンド”のイメージから脱却し、アルバムアーティストへ転換することに成功した。

後にオーケストラとの共演、映画化、再結成ライブでの演奏、ブロードウェイ・ミュージカル化と、様々なメディアにおいて何度も“進化”“生まれ変わり”を遂げている。

<引用元・参考文献・クロスビート3月号増刊『ロックンロール』(1995年)TOMMYの奇跡/前澤陽一(著)>

「See Me, Feel Me – Listening To You」/ロジャー・ダルトリー

ザ・フー『Tommy』

ザ・フー『Tommy』

(1969 / Track)


ザ・フー、エルトン・ジョン、エリック・クラプトン、ピート・タウンゼント、ロジャー・ダルトリー他『Tommy — Original Soundtrack Recording』

ザ・フー、エルトン・ジョン、エリック・クラプトン、ピート・タウンゼント、ロジャー・ダルトリー他
『Tommy — Original Soundtrack Recording』

(1975/ Polydor)

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