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戦争を知らない子供たち〜発売当時、賛否両論を巻き起こした“問題作”に込められていた100年後へのメッセージとは?

2022.08.13

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この曲は、終戦(敗戦)から25年が経った1970年に生まれた。
翌1971年にジローズ(杉田二郎&森下次郎)が歌ったレコードが発売されると、オリコンチャート最高11位、累計で30万枚以上を売り上げるヒットを記録。
もともとは大阪万博のイベントステージで“全日本アマチュア・フォーク・シンガーズ”というグループが歌うために作られた楽曲で、クレジットには作詞:北山修、作曲:杉田二郎と記されている。
歌詞を書いた北山は、万博のステージのフィナーレでこんな“語り”を入れて曲を紹介した。

「僕らは、あの…(おかげさまで)戦争を知らない子供たちと自分たちを呼ぶことができます。ですが、完全に“戦争を知らない”と言えない面もあります。よその国では“戦争を知っている子供たち”もたくさんいます。願わくば、100年後、200年後、僕たちの子供たちが、またその子供たちが“戦争を知らない子供たち”というこの曲と同じタイトルのもとで世界中のみんなが同じような音楽会をひらけることができれば、凄く幸せだと…とてもいいことだと思います。僕はそういうことを願ってこの歌を唄ってお別れしたいと思います。」


当時はベトナム戦争の真っ最中で、憲法上の制約があった日本はアメリカ合衆国の戦争遂行に基地の提供といった形で協力していた。
日本国内ではフォーク歌手や若者たちを中心に安保闘争や反戦運動が盛んだった頃で、この歌は戦後世代による“新しい反戦歌”として広く知られることとなる。


「あまい歌詞なんですよね…“青空が好きで、花びらが好きで、いつでも笑顔がすてきな人なら誰でも一緒に歩いてゆこうよ”だなんて。このフレーズ、この歌は実は僕の作品においては珍しく歌詞が先にあったんですよ。タイトルも先にあったんです。曲を誰に書いてもらおうか?と思って、最初は加藤和彦のところに持っていったんです。そうすると彼は“こんな歌詞!何が花びらが好きで…だよ!”と鼻で吹いて笑って突き返したんです。当時、アメリカでは“フラワーチルドレン”って言葉もあって、花っていうのは平和を象徴していたので、そこからヒントを得たっていうのもありました。」


加藤に作曲を断られた彼は複雑な想いのままジローズの杉田に話を持っていく。
ところが杉田は北山が書いた歌詞に感動して喜んで引き受けたのだ。
こうして誕生した「戦争を知らない子供たち」に対して当時は賛否両論が巻き起こったという。

「今の若者は戦争にも行ってないくせに生意気なことを言うな!」
「そんなあまい歌を歌ってる場合じゃないだろう!」
「戦死者を屈辱するな!」



まだ大正や昭和初期生まれの戦争体験者がたくさんいた時代。
曲が初めて歌われた万博のステージに関わったスタッフは皆、戦後生まれだった。
世代間ギャップや戦争に対する意識や解釈の相違などから、厳しい言葉が寄せられたのだ。
作曲を担当した杉田は当時の心境をこう語る。

「なんでこんな騒動になるんだろう?と思いました。この歌には“世界をもっとよくしよう”という意味合いがあるのに…。でも、この1曲で多くの人が議論してくれている。“すごいことになったな”と思ってました。」

北山はしばらくの間「ブーイングを浴びてまで詩を書きたくない」と言って創作意欲を失い、杉田も「もう歌うのは嫌だ」と感じていたという。
そんな“騒動”を引きずりながら4年の月日が流れ…1975年、杉田にとって“気持ちに決着をつける”機会が訪れる。
場所は沖縄だった。
日本に返還されてから3年が過ぎた沖縄でのステージ。

「当時、沖縄でこの歌を唄うことには勇気がいりました。最初はセットリストに入れなかったんです。」

しかし、万雷の拍手と共にアンコールのステージに戻った杉田を迎えたのは、観客たちによる「戦争を知らない子供たち」の大合唱だった。

「涙が出ました。これでようやく、みんなのところにこの楽曲が届いた!と思ったんです。」

曲の誕生から47年後の2017年、杉田はデビュー50周年記念のコンサート『人生の階段』を都内で開催した。
会場に集まった1700人の大合唱と共に「戦争を知らない子供たち」を歌い終えた彼は、最後にこんな言葉をファンに伝えた。

「いつまでも、この曲を歌える国でありますように願いを込めたい。これからも気持ちが続く限りギターを持って、この街、あの街で歌えたら幸せです。」



【佐々木モトアキ プロフィール】
https://ameblo.jp/sasakimotoaki/entry-12648985123.html

【TAP the POP佐々木モトアキ執筆記事】
http://www.tapthepop.net/author/sasaki

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