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孤独な少年のおまじない「だいせんじがけだらなよさ」~寺山修司が世に出した「ふたりのマキ」③

2023.05.06

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1967年の夏に演劇実験室・天井桟敷にやって来た17歳の少女は、ゴーゴーダンス大会で優勝したというだけあって、踊る姿は劇団員のなかでひときは目立つものだった。

それを見た寺山修司は生まれついてのパフォーマー、そしてほんものの表現者だと直感したのかもしれない。
少女を「天井桟敷」のアイドルと定義してこのように書いた。

カルメン・マキには故郷がない
マキは海からやって来た
十七才の野性の天使であり、詩を書く少女であり
「天井桟敷」のアイドルでもある
誰もマキの本名を知らない
――寺山修司


1968年2月に「時には母のない子のように」でデビューしたカルメン・マキは、天性の歌唱力と楽曲の力とでまたたくまにスターダムに祭り上げられた。

そして6月15日には早くもファースト・アルバムの『カルメン・マキ真夜中詩集 ろうそくが消えるまで』が発売になった。

カルメン・マキ真夜中詩集

歌のタイトルを読むだけで物語が紡ぎだされてくるような歌はすべて寺山修司の作詞で、作曲はソング・ライティングのパートナーだった田中未知によるものだ。

1. 時には母のない子のように
2. 家なき子
3. 二人のことば
4. 戦争は知らない
5. マキの子守唄
6. 山羊にひかれて
7. だいせんじかけだらなよさ
8. さよならだけが人生ならば
9. ロバと小父さん
10. かもめ
11. 時には母のない子のように


対になっている7曲目と8曲目のキーワードは「さよならだけが人生」、逆さに読めば「だいせんじかけだらなよさ」となる。

その2曲はいずれも中国の唐の時代の詩人、于武陵(う ぶりょう)の詩「勧酒(かんしゅ)」に端を発している。
唐詩選に収められた五言絶句の「勧酒」はこんな内容だ。

君にこの金色の大きな杯を勧める 
なみなみと注いだこの酒を遠慮はしないでくれ
花が咲くと 雨が降ったり風が吹いたりする 
人生に別離はつきものだ


日本では戦前に小説家の井伏鱒二(いぶせますじ)がそれを意訳し、「さよならだけが人生だ」という題で広く知られるようになった。

ハナニアラシノタトヘモアルゾ    
「サヨナラ」ダケガ人生ダ


寺山修司は幼いころに父が太平洋のセレベス島で戦病死し、12歳で母とも生き別れになって親戚に預けられて暮らしていた。
さみしさがこみあげると「だいせんじがけだらなよさ」と、呪文のように唱えて孤独に耐えてきたという。

唐時代の中国の「勧酒」が日本では井伏鱒二を通して「さよならだけが人生だ」となり、そこから寺山修司によって「幸福が遠すぎたら」という詩が生まれる。

さよならだけが人生ならば また来る春は何だろう
はるかなはるかな地の果てに咲いている野の百合何だろう
さよならだけが人生ならば めぐり会う日は何だろう
やさしいやさしい夕焼とふたりの愛は何だろう


カルメン・マキがうたった「だいせんじがけだらなよさ」をカヴァーしたのが、ザ・フォーク・クルセダーズを解散してソロになった加藤和彦だった。

ファースト・アルバムとなった『ぼくのそばにおいでよ』は同じ年の12月に発売されたのだが、そこに収められた「だいせんじがけだらなよさ」はフォークソングのファンに知られていく。


加藤和彦の「だいせんじがけだらなよさ」が広まり始めていたちょうどその頃、カルメン・マキは「時に母のない子のように」がヒットしたご褒美として、レコード会社の社長からSONYのステレオとレコードをプレゼントしてもらった。
そのときにジャニス・ジョプリンのレコードを聴いたことからロックに目覚めたカルメン・マキは、本格的に音楽の道を目指していくことになる。

ロック・シンガーへの道へと歩み出すことは、まず生き方を根本的に変えることから始まった。
まさに「会うは別れの始めなり」のとおり、それは天井桟敷や寺山修司との別れを意味していたのである。

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▼場所/横浜市開港記念会館講堂(ジャックの塔)

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