TAP the ROOTS

「明日なき暴走」を続けたボスが大人となる責任を感じた瞬間

2016.10.27

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 1980年。ブルース・スプリングスティーンは2枚組大作『ザ・リバー』を発表する。このアルバムは、発表前、前作『闇に吠える街』の延長線上の作品を想定していた人たちを、少なからず驚かせることになった。
 たとえば、『闇に吠える街』に収められた「暗闇へ突っ走れ」には次のような歌詞がある。
 それは、


 盗むこと
 騙すこと
 嘘をつくこと
 そして生きて、死ぬってことが
 どういうものなのか

 わかってない連中に対しての宣言である。


 今夜、証明してやろう
 証明してやろうじゃないか
 一晩かけて、証明してやる
 証明してやろうじゃないか
 ガール
 おまえのためにも証明してやる

 ブルースが歌うのは、ストリートの英雄の姿だった。



 そんなブルースに対しては、さまざまなイメージが作られていった。その代表的なものは、次のようなフォルクローレである。

 夜中。一台の車がハンバーガー・スタンドの前に停まる。降りてくるのはブルースだ。
「ダブル・チーズ・バーガー。ノー・オニオン。ポテトもいらない」
 オニオンは、ピクルスにかわるなど、いくつかのバージョンがある。そしてハンバーガーを受け取ったブルースは車に戻り、去っていくというストーリーである。
 だが、『ザ・リバー』の中に収められたいくつかの曲は、そんなタフガイのイメージからはかけ離れたものだったのである。

 中でも、聴く者を驚かせたのが「アイ・ワナ・マリー・ユー」だった。君と結婚したい、というシンプルなタイトルのこの曲は、次のような歌詞から始まる。


 ベビーカーを押しながら
 ストリートを歩いていく
 君の姿を見ている
 その髪にリボンが悲しげに
 揺れているのを目にすると
 俺のせいじゃないかって
 気がするのさ

 ブルースが歌ってきたのは、ストリートの弱者としての若者の叫びだった。だが、少しだけ年を重ねたブルースは、ストリートの弱者である女性を前にして、加害者意識を感じてしまうのである。


 けっして笑わず
 誰とも口を利かず
 いつだってそうやって
 君は通り過ぎていく
 このぐちゃぐちゃな世界で
 二人の子供を育てていく
 ワーキング・ガールは
 厳しい生活に違いない

 そして、突然、ブルースは歌うのである。


 リトル・ガール
 君と結婚したい
 ああ、そうさ
 リトル・ガール
 君と結婚したい
 本気だよ
 リトル・ガール
 君と結婚したいのさ

 何故、ブルースはこの歌を歌ったのだろうか。
 この歌の余韻は、そのままアルバムのタイトル曲「ザ・リバー」へとつながっていく。だが、その前に、次回は父親との確執を歌った「インディペンデンス・デイ」を紐解いてみようと思う。何故なら、この「アイ・ワナ・マリー・ユー」にも次のような歌詞が唐突に出てくるからである。


 俺の親父は死ぬ間際に言った
 真実の愛なんてものは嘘っぱちだと
 親父は傷ついた心のまま死んでいった
 満たされない人生は
 人を頑なにしてしまうんだ



ブルース・スプリングスティーン『ザ・リバー』
Sony

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