「ホテル・カリフォルニア」はアルバム『ホテル・カリフォルニア』のタイトル・トラックだが、この曲がシングル・カットされるとは、メンバーの多くが考えていなかった。
だからこそ、「この曲(ホテル・カリフォルニア)がシングルになることに決まった」と、ドン・ヘンリーがメンバーに伝えた時、ドン・フェルダーは思わずこう言ったのだ。
「それは違うだろう」と。
1970年代の中頃、イーグルスは“AMラジオ向けの”グループだった。ドン・フェルダーがその意味を説明してくれる。
「それは、3分から3分半のシングルを出すということだよ。ポップな曲、ロックな曲、踊れる曲、もしくはバラード。イントロは30秒。DJが喋りやすいようにね。
ところが、『ホテル・カリフォルニア』のイントロは1分もある。曲全体でも6分だ。それに途中のブレイクで音が途切れるし、そこから2分間はギター・ソロだ」
だから彼は、「ホテル・カリフォルニア」はシングル向けじゃない、と思ったわけである。
「それで(ドン・ヘンリーに)、君は間違ってる、FM放送用にはいいかも知れないが、シングルじゃない、と言ったのさ。結局は、幸いなことに、僕の方が間違っていたんだけどね」
さて。長いイントロの後に、ようやく歌が始まる。
♪ 暗い砂漠のハイウェイ
涼風に髪がなびく
コリタスの暖かな匂いが
あたりに立ちのぼる ♪
歌が始まった瞬間、聴く者はイーグルス・マジックにかかってしまう。ドン・フェルダーはその秘密の一端を披露してくれる。
「イーグルスの歌詞は、なるべく五感に働きかけて、歌の世界をイメージしてもらおうとしているのさ」
<暗い>砂漠で、視覚が刺激され
<涼風>が髪に当たり、触覚が刺激され
<コリタス>の香りで、嗅覚が刺激されるわけである。
♪ 遥か彼方で瞬く光
僕の頭は重く、視界はぼやけ
一晩の宿を求めることになる ♪
そして「光」を見ることで、主人公の五感は突然、シャットダウンする。ここから異次元に入るのだ、という予告のようなものだ。
そこから主人公は、ホテルの女主人と幻想的な時を過ごすことになるのだが、この歌を悲しき男の一生として聴いたリスナーも少なくなかったというのである。
暗い砂漠のハイウェイ。それは悲しく、寂しい独身時代の男だ。
夜にもなれば、怪しげな香りに誘われ、いつしか、女と出会うのだ。
♪ 彼女はその戸口に立っていた
そして僕は教会の鐘の音を聞いた ♪
これは、そのまま結婚である。
ホテル・カリフォルニアとは、西海岸の浪費を愛する女との結婚生活のことだというわけだ。
♪ 彼女の心はティファニーのねじれ
彼女の体はメルセデスの曲線 ♪
こんなはずじゃなかったのに、と主人公は思う。
♪ 思い出すために踊る者もあれば
忘れるために踊る者もある ♪
だからといって、離婚は許されないのだ。
♪ お好きな時にチェックアウトはできますが
あなたは離れることなどできないのですよ ♪
イーグルスが巧妙に仕掛けた五感を刺激する詩など関係なく、ただただ自分の世界を歌に投影するのも、音楽の自由である。
そしてだからこそ、この歌はAMラジオでも流れ、時代を代表する曲となったのだろう。
では、イーグルスの真意は、どこにあったのだろうか。。。
(このコラムは2015年9月10日に公開されたものです)