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パルプ・フィクション〜世界のポップカルチャーの記号になったタランティーノ

2023.10.14

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『パルプ・フィクション』(Pulp Fiction/1994)


デビュー作『レザボア・ドッグス』(1992)や脚本作品『トゥルー・ロマンス』(1993)で「新しい才能の登場」として騒がれていたクエンティン・タランティーノが、世界的に脚光を浴びることになったのがカンヌ映画祭を制した『パルプ・フィクション』(Pulp Fiction/1994)だった。

一つの映画の中に3つの物語を入れて、犯罪映画のアンソロジーを作ろうと思ったんだ。1930〜40年代に流行った大衆犯罪小説(パルプ・フィクション)からヒントを得てね。そういった雑誌では、一つの話の主人公が別の話では脇役として登場していたりする。こういう手法って映画じゃまずないから面白いと思った。


映画・音楽・コミックなど膨大なポップカルチャーを吸収分析するオタク/コレクター気質と、それを消化して自己表現へと変えていく作家性を併せ持つタランティーノが次に目をつけたのが、安価で質の低い紙に印刷された三文小説が並ぶ雑誌の総称パルプ・フィクション。密かに大作家への登竜門としても機能したB級メディアへのオマージュだ。

そのうち時間の流れや人間関係も一回バラバラにして再構築するってこともしたくなった。観客はいきなり物語の中に投げ込まれて、最初は展開が見えないんだけど、だんだんとその全貌がわかってくるわけさ。それってスリリングじゃない!?


ジョン・トラボルタ、ブルース・ウィリス、ユマ・サーマン、サミュエル・L・ジャクソン、ハーヴェイ・カイテル、ティム・ロス、エリック・ストルツ、ロザンナ・アークエット、クリストファー・ウォーケンなど、映画好きならたまらない“癖”のある俳優たちがキャスティング。こうした面々が一つの作品でいったいどう絡み合うのか、観る前から思わずワクワクしてしまうのもタランティーノの“計算済み”だろう。

好き嫌いがはっきりと分かれることでも知られるタランティーノ作品だが、小道具や台詞への“拘り”を心地よくとらえられるかどうかがその境界線のようにも思える。

本作にもハンバーガーやコーヒーの件をはじめ、オールディーズが鳴り響く50年代風レストラン、発砲前の朗読儀式、ドラッグ過剰摂取の対処マニュアル、日本刀での復讐劇、トイレでのパルプマガジン読書、レトロなツイストダンス、形見の時計のエピソード、サーフミュージックといったあたりが強い印象を残すが、それらを楽しめ人には『パルプ・フィクション』は飽きないオモチャのような魅力を放つ。

物語は、ギャングのボスの若くて美しい妻(ユマ・サーマン)の食事相手をしなければならなくなった手下のビンセント(ジョン・トラボルタ)と相棒のジュールス(サミュエル・L.ジャクソン)、同様にギャングのボスから八百長試合を強いられたボクサーのブッチ(ブルース・ウィリス)を軸に進んでいく。そして癖のある面々があらゆる場面で関わってくる。コメントにもあるように観る者はゆっくりとゆっくりと引き込まれていく。

この役をきっかけに、低迷期を抜け出して第一線に復帰したジョン・トラボルタは言う。

才能のある監督である以前に、優秀な脚本家なんだ。彼の描く脚本には、役者なら誰でもその映画に出たいと思うような独特の作風がある。独特の声と言ってもいい。良い脚本と良い監督。役者にとっては絶対に外せない条件だ。今までは僕もそのことが分からずに失敗したことがあった。クエンティンとの仕事は最高の形でその条件が揃っていた。だから僕も冒険ができたのさ。


なお、サウンドトラックも“癖”が満載だが、中でもリンク・レイの1958年のヒット「Rumble」が印象的。ギターによるインストナンバーにも関わらず、その過激な音とタイトルのせいか、犯罪を誘発するという理由で放送禁止になったR&R時代屈指の名曲だ。

ジョン・トラボルタとユマ・サーマンのツイストダンスのシーン


予告編

サントラの選曲もタランティーノらしい。こちらはリンク・レイの「Rumble」。

『パルプ・フィクション』

『パルプ・フィクション』






*日本公開時チラシ
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*参考・引用/『パルプ・フィクション』パンフレット
*このコラムは2016年1月に公開されたものを更新しました。

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

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