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マイ・ブルーベリー・ナイツ〜撮影から帰宅直後の朝6時に曲を作ったノラ・ジョーンズ

2023.04.04

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『マイ・ブルーベリー・ナイツ』(My Blueberry Nights/2007)


撮影でネバダ州に向かう飛行機に乗り込む時、私のギターを見て撮影クルーの一人が笑うの。言ってやったわ。「何で笑うの? 私はミュージシャンよ」って。すると彼は「そんなの弾いてる暇なんてないと思うよ」。結局、彼が正しかった。1日だけオフがあって、2週間ぶりにギターを弾いて1曲作って、それだけ。


ブルーノートからデビューアルバムをリリースした2002年以降、ノラ・ジョーンズの音楽はあっという間に世界中に広まり、グラミー賞8部門受賞や2000万枚上のセールスを記録。彼女は幅広いファン層を獲得するとともに、著名なミュージシャンたちからも熱い視線を集めることになった。2005年にはレイ・チャールズと「Here We Go Again」をデュエットして再びグラミー賞を獲得。2004年のセカンドアルバムも2007年のサードアルバムも大ヒットした。

そんな彼女に今度は映画界からオファーがくる。『欲望の翼』『恋する惑星』『天使の涙』『ブエノスアイレス』『花様年華』などで、香港だけでなく世界的監督となっていたウォン・カーウァイからだった。最初ノラは「映画用の音楽制作」の件で呼ばれたと思った。しかし、カーウァイ監督はノラを見つめてこう言ったそうだ。「演技してみないか?」

一番惹かれたのは彼女の声だよ。とても映画的で、上質な楽器の音色のようで。彼女の声を聞いただけで、映像を見なくてもストーリーが分かるんだ。


「街をさまよい歩く彼女の姿までイメージできた」というカーウァイ監督。一方でノラも彼の過去の作品を観て、こちらもすっかり魅せられてしまった。監督にとっては初の英語作品。そしてノラ・ジョーンズにとっては女優デビュー作にして初主演作。それが『マイ・ブルーベリー・ナイツ』(My Blueberry Nights/2007)だ。

映画はニューヨーク、メンフィス、ラスヴェガスなどが舞台に選ばれた。最初は何もかも初めてのことで「自分が主演」していることに戸惑っていたノラだが、次第に慣れていった。

また、ノラはこの映画のために新曲「The Story」をサウンドトラックに提供している。これは夜が明けるまで続いたニューヨークの撮影から帰ってきた彼女が、朝の6時に作った曲。

その時、私はピアノが置いてある東向きの部屋に行って、太陽が昇るのを眺めていたの。とても美しかったわ。それから短時間で1曲書き上げた。自然に流れ出てきたのよ。後日、監督から何かサウンドトラックに合いそうな曲はないかと訊かれて、あの曲がぴったりだと思ったの。間違いなく映画撮影の体験に影響された曲だから。


映画は、カーウァイ作品らしい「失恋」や「旅」が描かれる。夜寝る前にベッドで良質な短編小説を読んでいるような、そんな印象的な“夜のため”の物語。ジュード・ロウ、デヴィッド・ストラザーン、ナタリー・ポートマンらがノラを支えている。

ニューヨークの夜。失恋したばかりのエリザベス(ノラ・ジョーンズ)は、行きつけのカフェで一番人気がなくて今夜も売れ残ったブルーベリー・パイを差し出される。彼女を慰めてくれるのはオーナーのジェレミー(ジュード・ロウ)。二人が恋してもおかしくないのに、相手を忘れられないエリザベスは旅に出ることを決意する。

ニューヨークから遠く離れた場所で、バーやレストランで働いているエリザベス。別れた妻への想いを断ち切れないアル中気味の男(デヴィッド・ストラザーン)、父親との確執でギャンブルで生計を立てる女(ナタリー・ポートマン)といった人々との出逢いを通じて、エリザベスは1年がかりで自分の人生を見つめなおしていく。そう、帰る場所はニューヨークなのだ。彼女が向かった先は?

メンフィスで流れるオーティス・レディングの「Try a Little Tenderness」、カジノで流れるライ・クーダーをはじめ、ルース・ブラウン、カサンドラ・ウィルソン、キャット・パワーなど、“夜のため”の音楽の存在も光る作品だ。

ノラが撮影中に作った曲「The Story」


キャット・パワーもワンシーンで出演。サントラ収録の「The Greatest」が美しい。

DVD『マイ・ブルーベリー・ナイツ』

DVD『マイ・ブルーベリー・ナイツ』






*日本公開時チラシ
147165_1
*参考・引用/『マイ・ブルーベリー・ナイツ』パンフレット
*このコラムは2017年2月に公開されたものを更新しました。

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

【執筆者の紹介】
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