「本物の音楽」が持つ“繋がり”や“物語”を毎日コラム配信

TAP the POP

TOKYO音楽酒場

【1軒目】渋谷・beat cafe──海外アーティストも訪れる、知る人ぞ知るロック・バー

2014.07.25

Pocket
LINEで送る

いい音楽が流れる、こだわりの酒場を紹介していく新連載。第一回目に訪れたのは、渋谷のホテル街にある知る人ぞ知るロック・バー。有名アーティストもフラっとやって来るという音楽酒場は、日本よりも海外で有名かも?

渋谷・円山町。いかがわしいネオンが通りにひしめくこの一帯は、ライブハウスやクラブが密集する地域としても知られている。坂を上り、このあたりのランドマークとなっている有名ライブハウスの先にある雑居ビル。地下に下ると、その店はある。ちゃんとした看板もないので不安になるかもしれないが、店名が書かれたドアを開ければ、そこは海外のパブにトリップしたかのように賑やかな音楽酒場だ。

IMG_4022IMG_4010

beat cafeがオープンしたのは、8年前。以前は宇田川町のはずれの古い雑居ビルに店を構えていた。オーナーは、ホフディランやTHE THRILL、ブルートニックのドラムとしても知られる、田中元尚氏。「ゲンショウさん」の愛称で親しまれる彼が、床板の張り替えから、ボトル棚の組み立て、壁のペンキ塗りまでDIYですべて手がけたその店は、その手作り感も含めて、いい具合に「適当」なところがなんとも居心地がよかった。デカい音で音楽が鳴る店内は、しっぽりと会話を楽しむような雰囲気でもないし、また昔からあるロック・バーのように、これ見よがしに蘊蓄を披露するような店でもない。

「俺自身がそういう話を好きじゃないからね。だいたい俺は、エロトークしかしないから(笑)」(ゲンショウさん)

と、ゲンショウさんはいつものように嘯くが、この軽さこそが、店が長く愛され続ける理由だと思うのだ。ちゃんとしたバーのような行き届いたサービスなどはないが、その分、客のほうも気兼ねなくくつろげる。まるで音楽好きの友達の部屋で、バカ話で盛り上がりつつダラダラと飲んでるような感覚。盛り上がりすぎて、気がつけば朝を迎えていたことも何度もあった。1年半ほど前に現在の場所へと移転したが、店の雰囲気は以前とまったく変わらない。

IMG_4053IMG_4038

オーナーが現役のミュージシャンであり、また連日カウンターに入るバー・スタッフのkato-manも、インディペンデント・レーベルやライヴ・イベントを主宰していることもあって、beat cafeにはアーティストたちもよく訪れる。とくに多いのが、ツアーで日本にやって来た海外のミュージシャン。その名前を挙げていくと枚挙に暇がないが、フレイミング・リップス、キャット・パワー、バトルズ、ソウルワックス……などなど、大型野外フェスのステージに立つような有名どころもフラっと飲みに来たりするのも面白い。彼らも、一般客に交じってワイワイと立ったまま会話をしながら、普通に、楽しく飲んだくれている。

「そういうのが逆にいいんじゃない? わかりやすく接待で連れてもらったりする店とは違って。(アーティストを招聘した)プロモーター的にも、ここに連れてっておけば大丈夫みたい感じのもあると思うし。この前も、ある若手バンドが来たけど、連れてきたプロモーターがアーティストを店にツッコんで『じゃあ、後はよろしく』って置いてってさ(笑)」(kato-man)

IMG_4024

この店には外国人の客も多い。オープン当初は、仕事のために日本に滞在する外国人が来る程度だったが、4年ほど前に『ロンリープラネット』に(勝手に)紹介されたことで、いつからかバックパッカーなどの観光客の姿も多く見られるようになった。

「そこは日本人と外国人の違いかもね。日本人は自分が気に入った店は、あまり人に教えずに隠れ家にしたがるけど、でも外国人は『あの店、ヤベェよ』って感じで、みんなにシェアする。どっちがいいっていうのじゃないけどね。海外のアーティストに知れ渡ったのも、結局はミュージシャン同士の口コミだし」(kato-man)

IMG_4049IMG_4063

さまざまな人種が交差するbeat cafeで、ある種の共通言語のようになっているのが、80年代のロック/ポップスだ。誰もが知っているMTVヒットの数々が流れれば、言葉の壁も関係なく、みんなが一斉に盛り上がる。そんな共通言語から派生して、客の雰囲気によっては60年代のロックの王道から、最新のダンス・ミュージックまでもが流れる日もあったり、ある時はギターポップが立て続けに聴けたり、またある時はハードコア・パンクが爆音で流れたり、サザン・ソウルにしみじみと聴き入ったり……と、選曲も実に自由奔放だ。そんな音楽への接し方もまた、友達の部屋で好きな曲をかけ合っては盛り上がる、気兼ねない楽しさのようなのだ。

IMG_4040

撮影/相澤心也



Beat Cafe
東京都渋谷区道玄坂2-13-5 B1
20:00〜5:00 不定休
https://www.facebook.com/beatcafe

Pocket
LINEで送る

あなたにおすすめ

関連するコラム

[TOKYO音楽酒場]の最新コラム

SNSでも配信中

Pagetop ↑

トップページへ