ミュージックソムリエ

「ポール・サイモン発 取りこぼされた英フォーク・シンガー、ボブ・ジール行き」

2015.06.29

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荒い。エモーショナルなアコギと歌唱が「一期一会」をテーマとした楽曲の寂しさを際立たせています。この曲が収録されたアルバム『ソングブック』が発表されたのは1965年のこと。ポール・サイモンは渡英していました。その前年にリリースした、サイモン&ガーファンクルとしての最初のアルバム『水曜の朝、午前3時』が世間に認められなかったことに失望して、イギリスでチャンスを掴もうとしていたのです。その成果が名作ソロ『ソングブック』や『サウンド・オブ・サイレンス』へと繋がっていくのですが、その話はまた別の機会に。

ロンドンから刺激を受けたポール・サイモン。その逆も然り。
彼が住んでいたロンドンのフラット(公営住宅)では、サンディ・デニーやロイ・ハーパーといった、才能豊かなミュージシャンが同居人として接触していました。当時17歳、学校を中退していたアル・スチュワートもそんな一人。ポール・サイモンと出会ったことを一つのきっかけとして、フォークを志すことになりました。
セカンド・アルバム(1969年リリース)に収録された「You Should Have Listened To Al」では、溌剌としたコーラス・パートや爽やかなメロディーからポール・サイモンへのリスペクトを感じることが出来ます。ちなみにセカンド・アルバムにはジミー・ペイジ、フェアポート・コンヴェンションのメンバーが参加しています。


この曲のタイトルは「君はアル(の音楽)に耳を傾ける必要がある」。
この言葉に表れている通り、当時大変モテモテ男だったアル・スチュワート。貴公子と呼ばれていた彼は、この時期自身の恋愛体験を元にした私小説ソングを多く発表しています。この世界観もポール・サイモンからの影響があるのですが、アルのそれはもっとえげつない。当時21歳の彼が、その女性遍歴を具体的に語るタイトル・ナンバー「Love Chronicles」は、寂しい青春を過ごした男たちに多大な精神的ダメージを与えるナンバーです。


余談ですが、ポール・サイモンの75年作『時の流れに』にも、「恋人と別れる50の方法」という曲があります。日本だと田辺マモルの「プレイボーイのうた」がありますね。

さて、その貴公子たる振る舞いはともかくとして、彼の音楽性は、多くの英フォーク・シンガーに影響を与えました。その一人としてご紹介したいのが今回の記事の主役である(はずの)ボブ・ジール。そう、ここからが本題だったりします。

数年前、彼のアルバムがCD再発(2010年)された時には絶賛のコメントと共に「近年、英フォーク・マニアの間で著しく評価を高めている」との情報が添えられていました。
英フォーク・マニア(に限った話ではありませんが)は、とにかく他人がまだ知らない名作を追い求めがち。しかしそれも21世紀に入ってネタ切れの様相を呈していました。そんな中、現れたのが本作。リリースは1982年、自主制作。時代はフォーク不毛の80年代。そこまで抑えるとは恐るべし。マニアの執念が感じられます。


実は本作。82年発表ではあるものの、厳密には70年代に録音していたものを蔵出ししたもの。
ここで聴ける歌に私小説的な歌詞の要素は全く皆無です。しかしながら、アル・スチュワートが持っていた、センチメンタル且つロマンティックな世界観は受け継がれています。
トラッドに根差した情緒溢れるメロディーも素晴らしい。またサウンド面では、エレキ・ギターをフューチャーしたダークな雰囲気が印象的。
これは(初期のアルと同様に)アシッド・フォークの流れを汲んだものです。CD再発から5年経った現在でも詳細は明らかにされていない謎多き、フォーク・シンガー。
こういった発掘物は相応のクオリティーであることがほとんどなのですが、このアルバムは違います。まだ入手可能ですので、機会があれば是非。
(GAOHEWGII)

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