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「日本人としてのロック」〜THE YELLOW MONKEY復活に寄せて〜

2016.11.28

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デヴィッド・ボウイの死、ボブ・ディランのノーベル賞、宇多田ヒカルの復活、RADWIMPSの大ヒットなど、海外でも国内でも地殻変動が起こっているかのような2016年だが、日本の音楽界の変化は思えばTHE YELLOW MONKEYの復活から始まっていた。

1992年にデビューした彼らは2001年に活動を休止してから15年間、一切結集することはなかった。ところが今年の1月8日、突然活動再開とツアーの開催を発表した。

彼らはツアーをやりながら積極的にメディア出演も行い、主要な音楽番組や音楽雑誌がこぞって彼らを取り上げた。
日本テレビの音楽特別番組「THE MUSIC DAY」で、吉井和哉はこんなことを言っていた。

日本人の聴く日本人で生まれたバンドの集大成を僕らがやっぱりになっていきたい。日本のロックバンドの国宝でありたい。

「国宝」という言葉に対して賛否両論が巻き起こったが、再結集後の彼らの活動を見ているとそれだけの気概を持って活動していることが伝わる。

THE YELLOW MONKEY(イエモン)はもともと、日本の歌謡曲と洋楽のロックの融合を試みたバンドであった。
フロントマンの吉井は日本的な歌謡曲の持つ切なさを帯びたメロディに、グラムロックやハードロックの尖った音を組み合わせた。
その試みはロックを欧米からの「借り物」でない、日本人だけができるロックを生み出そうとする行為だった。
日本人の蔑称である、「イエローモンキー」という言葉をバンド名にしたのも、そのような想いからだったのかもしれない。

しかし代表曲となった「JAM」や「BURN」などにおいてその試みは成功したものの、彼らは日本人としてのロックを突き詰めるあまり、壁にぶつかってしまう。
それは洋楽へのコンプレックスから生じるものであった。彼らはより洋楽に近づこうと様々な挑戦をした。
イギリスでのリリース、洋楽志向の楽曲を中心としたツアー、洋楽アーティストとのフェスでの競演。だがいい結果を残せず、バンドは停滞する。
その結果メンバー同士の行き違いが起こり、吉井はバンドの活動休止を決めた。

吉井はバンドの休止後、2003年からソロ活動を始めた。ブルース、フォーク、演歌などの影響を感じさせる楽曲に、自分自身の人生や負の感情を歌った内省的な音楽を彼は作った。
それらの楽曲からはイエモンにおいて味わった挫折感をきっかけに、自分自身を見つめ直そうとしている吉井の姿が感じ取れた。
アルバムごとに変化する作風は、彼自身がもがいているのを、そのまま表しているかのようだった。

そんな吉井に転機が訪れたのは2013年である。彼は「GOOD BY YOSHII KAZUYA」というツアーを開催する。
このツアーではイエモン初期の楽曲からソロの最新曲まで、分け隔てなく同じように歌われた。10年にも及ぶソロ活動によって、イエモンを含めた過去のキャリアを、吉井は客観的に見ることができるようになったのであろう。

再集結を決意したのもこの年だった。休暇中にロンドンのハイドパークで行われたローリング・ストーンズのライヴを観た吉井和哉は、すぐにイエモンのメンバーにメールをしたという。
その時の思いを、NHK の音楽番組「SONGS」でこう語っていた。

「ハイドパークで(ローリング・ストーンズを)観たときにも思ったんですけど、世界に平均年齢70歳のじいさん4人が集まって何かできてんのって、他になんかあんのかなって思って。
スポーツとかわからないけど、そうしたらバンドしかないんですよ。
(中略)
僕は父親も兄弟がいなかったから、このバンドが家族なんです」

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吉井はメンバーと共に再結集の準備を進めると同時に、自らのキャリアを総括するような作品を2枚作った。
2014年の『ヨシー・ファンク Jr. 〜此レガ原点〜』と、2015年の『STARLIGHT』である。

『ヨシー・ファンク Jr.』は昭和歌謡のアルバムで、美空ひばりや森進一、沢田研二、ピンク・レディーなど、幼少期に聴いていた曲をカバーしていた。
それらがほぼ原曲に忠実に歌われることによって、楽曲の色褪せない魅力と彼自身の原点が歌謡曲にあることがわかる。

逆に『STARLIGHT』はビートルズとスティーヴィー・ワンダーを連想させる「迷信トゥゲザー」、ダムドやクラッシュを日本風に解釈した「Step Up Rock」、冒頭のシャウトがジョン・レノンの「MOTHER」を思わせる「STRONGER」と、洋楽から長い間にわたって影響を受け続けたことを表現した。

ちょうどこの時期に初めて吉井の音楽に出会った僕にとって、この2枚のアルバムは衝撃的だった。長いキャリアを経てもなお、過去の楽曲たちのエッセンスを現代に伝えていくことができる、そんなパワーを感じたからである。

吉井が2枚のアルバムで区切りをつけたことによって、イエモンは再び始まった。
そうして新しく届けられたイエモンの新曲「砂の塔」は、サスペンスドラマを思わせるストリングスに、歌謡曲的なメロディ。それを盛り立てるようなファンク風のベースラインや、尖ったギターのアルペジオ。
まさに彼らが目指し続けた「日本人としてのロック」を、まっすぐに表現したものの最新形だ。

THE YELLOW MONKEY『砂の塔』
日本コロムビア
 

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