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人や芸術と繋がる、米津玄師の声

2018.03.26

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 音楽シーンを代表するシンガーたちの声は、記名性が高い。
 例えば「井上陽水の声」と言えば誰もが、あの粘り気の強いハイトーンボイスを思い出すことができるだろう。

 魅力的なシンガーの声は、まさに唯一無二の輝きを持つ。
 2010年代に登場したシンガー、米津玄師もそのような声の持ち主だ。
 彼のキャリアの始まりは、コンピューターソフト「VOCALOID」を用いた「声を隠した」活動からだった。

 米津玄師の生まれは徳島県。幼い頃から内気で、絵を描くことや漫画を読むことが彼の趣味であった。

 やがてアニメやネットの影響で、BUMP OF CHICKENやASIAN KUNG-FU GENERATION、RADWIMPSなどの日本のロックバンドを聴き始めるようになる。

 幼少より絵を描いてきた彼が音楽にのめり込み、自分で音楽を表現したいと思い始めるのは、それからすぐのことだ。
 中学時代に仲間とバンドを結成し、様々なバンドのコピーやオリジナル曲を演奏していた。
 しかし、中学を卒業すると仲間たちとも疎遠になり、バンドは自然解散してしまう。

 そんな時、彼は楽曲制作ソフト「VOCALOID」に出会った。
 このソフトはメロディやアレンジを入力すると、歌や楽器などをコンピューターの音声で演奏するという革命的なものであった。
 まさに米津の頭の中の音楽を再現するにはうってつけのものだった。
 彼は「ハチ」という名前を使い、動画配信サイト「ニコニコ動画」に自らが制作したPVとともに楽曲を発表していく。
 すると瞬く間に多くの若者が「ハチ」の作る音楽に虜になったのだ。

 独特な響きを持つメロディと、言葉遊びのようなリズム感、そしてストーリー性を持った歌詞は、当時全盛期だったボーカロイド音楽の中においても傑出していた。
 そしてボーカロイドによる音楽が広く知られるようになった頃には、彼はその代表的なクリエイターの一人になっていたのだ。

 しかし米津は、中高時代に経験した「バンド」への憧れが常にあったという。
 そして、「何かを隠れ蓑にせず、自分の素顔で表現したい」と決意した彼は「米津玄師」として再デビューを果たす。

 彼の声は、自然と憂いや哀愁を引き立たせるような「生きた声」であった。
 そしてその声によって、米津が作るメロディも、より生命感が溢れるものになったのだ。

 初めて自らの声で音楽を作り始めたことによって、どこか内省的だった彼のメロディや歌詞も変わり始めた。

 他のミュージシャンやアレンジャーを迎えたセカンドアルバム『YANKEE』以降、彼の音楽は幅広い人たちに聴かれるようになる。



 米津の魅力的な声はアーティストをも魅了し、中田ヤスタカやDAOKOといった他のミュージシャンの作品にも参加している。



 そして、2017年11月には4枚目のアルバム『BOOTLEG』を発表した。
 このアルバムは、自らが影響を受けた音楽、漫画、映画、芸術へのリスペクトが込められた作品となっている。

 「風の谷のナウシカ」から着想を得た「飛燕」や、彼が愛聴している最新のR&Bを取り入れた楽曲「orion」、ルーツであるBUMP OF CHICKENへのオマージュを込めた「Nighthawks」など、米津自身が影響を受けたものへの敬意と彼の持つ歌の魅力が融合した楽曲が収められた。



 さらにこのアルバムの中で米津は、ゲストボーカルとしてモデルの池田エライザと俳優の菅田将暉を迎えるという初めての試みをしている。

 歌手を本業としていない二人でありながら、SNSや映画の中で彼が耳にした歌声に強く惹かれ、コラボレーションを依頼したのだという。

 米津はそれぞれの声の魅力を、見事に引き出しながら楽曲を創り上げた。



 このようにして、彼は刺激を受けた芸術や人と大きな化学反応を起こしながら『Bootleg』を創り上げた。
 「海賊盤」というこのタイトルも、「様々な影響の上に自分の音楽がある」という宣言であった。
 
 結果的にこの作品はチャートの1位を獲得し、2017年度のCDショップ大賞にも選出された。
 彼の音楽は確実に多くの人に届いている。

 かつて一人で作品を創り上げ、コンピューターの声で音楽を届けていた米津は、今自らの声で人や芸術と繋がりながら作品を届けようとしている。

(文・吉田ボブ)


米津玄師 『BOOTLEG』
Sony

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